一 出入国管理令第六〇条は、憲法第二二条第二項に違反しない。 二 密出国の日時を「昭和二七年四月頃より同三三年六月下旬まで」、その場所を「本邦より本邦外の地域たる中国に」と各表示し、その方法につき具体的な表示をしていない起訴状であつても、検察官の冒頭陳述により、被告人は昭和二七年四月頃までは本邦に在住していたが、その後所在不明となつてから、日時は詳らかでないが中国に向けて不法に出国し、引き続いて本邦外にあり、同三三年七月八日帰国したものであるとして、右不法出国の事実を起訴したものとみるべき場合には、審判の対象および防禦の範囲はおのずから明らかであつて、刑訴第二五六条第三項に違反するものということはできない。
一 出入国管理令第六〇条の合憲性 二 出入国管理令第六〇条第二項違反罪における訴因の特定
出入国管理令60条,出入国管理令71条,憲法22条2項,刑訴法256条3項
判旨
憲法22条2項の外国移住の自由には一時旅行の自由も含まれるが、公共の福祉による合理的な制限に服する。また、刑事訴状における公訴事実の特定は、特殊事情がある場合には防禦を害さない限りの幅のある表示も許容される。
問題の所在(論点)
出国の具体的日時、場所、方法を特定せず、約6年という幅のある期間を表示した起訴状の記載は、刑事訴訟法256条3項の公訴事実の特定を欠くか。
規範
刑事訴訟法256条3項が公訴事実に日時・場所・方法の明示を求める趣旨は、裁判所に対し審判対象を限定し、被告人に防禦の範囲を示すことにある。したがって、これら事項が犯罪構成要素である場合を除き、犯罪の性質上詳らかにできない特殊事情がある場合には、法の目的を害さない限りの幅のある表示であっても公訴事実は特定されていると解すべきである。
重要事実
被告人は、昭和27年4月頃から同33年6月下旬までの約6年間の間に、有効な旅券を受けず中国へ出国したとして出入国管理令違反で起訴された。起訴状には出国の具体的な日時、場所、方法が記載されていなかった。検察官は冒頭陳述において、被告人が昭和27年までは日本に居住し、その後所在不明となり、昭和33年7月に中国から帰国した事実を立証すると説明した。
あてはめ
密出国のように、国交のない国へ密かに赴いた事案では、出国の具体的顛末を確認することは極めて困難であり、詳細を詳らかにできない特殊事情が認められる。本件では、起訴状および冒頭陳述の記載を総合すれば、昭和27年の所在不明時から昭和33年の帰国直前までの間の1回限りの不法出国を対象としていることが明らかである。これにより審判対象は限定され、被告人の防禦に実質的な障碍を与えるおそれもないといえる。
結論
本件起訴状の記載は、刑事訴訟法256条3項に違反せず、公訴事実は特定されている。
実務上の射程
公訴事実の特定の程度について「審判対象の画定」と「防禦の範囲の明示」という二つの機能を基準とする。密出国事件や麻薬譲渡事件など、密行性が高く日時等の特定が困難な事案における訴因の特定方法として、実務上広く参照される判例である。
事件番号: 昭和36(あ)1536 / 裁判年月日: 昭和38年1月17日 / 結論: 棄却
諭旨は、原判決の刑訴二五五条第一項の解釈を非難するけれども、同項前段の「犯人が国外にいる場合」は、同項後段の「犯人が逃げ隠れている」場合と異なり、公訴時効の進行停止につき、起訴状の謄本の送達もしくは略式命令の告知ができなかつたことを前提要件とするものでないことは該規定の明文上疑いを容れないところであり、また、犯人が国外…