判旨
国務大臣在任中、内閣総理大臣の同意なく逮捕・勾留されたという手続上の違憲・違法の瑕疵があったとしても、その拘束下で作成された検察官面前調書を除外した上で、他の適法な証拠のみによって犯罪事実の認定が十分に可能であるならば、判決に影響を及ぼすべき違法とはいえず、原判決を破棄する理由にはならない。
問題の所在(論点)
国務大臣に対する憲法75条違反の疑いがある身体拘束下で作成された検察官面前調書を証拠として採用したことが、判決に影響を及ぼすべき違法(刑訴法411条等)に当たるか。
規範
刑事訴訟において、捜査段階の手続に違憲または重大な違法がある場合、その手続に基づいて得られた証拠の証拠能力が否定される可能性がある。しかし、上告審における原判決の破棄事由となるためには、当該違法が「判決に影響を及ぼすべき」ものであることを要する。したがって、仮に特定の証拠の収集過程に瑕疵があったとしても、当該証拠を排除した上で、他の適法な証拠(公判供述、他の書面等)により、犯罪構成要件に該当する事実および被告人の経歴等の付随的事実が合理的な疑いを超えて認定できる場合には、原判決の結論は維持される。
重要事実
被告人は国務大臣在任中、内閣総理大臣の同意(憲法75条)がないまま逮捕・勾留され、接見禁止処分を受けた。この拘束期間中に検察官によって二通の聴取書((イ)経歴に関するもの、(ロ)融資斡旋の請託を受け謝礼を受領した事実に関するもの)が作成された。一審および二審の原判決は、これらの聴取書を証拠として採用し、受託収賄罪等の有罪判決を下した。被告人は、当該身体拘束は憲法違反であり、それに基づく聴取書を証拠として有罪を認定した原判決には法令違反があると主張して上告した。
あてはめ
まず、経歴認定の資料とされた聴取書(イ)については、これを除外しても、第一・二審の公判調書における被告人の供述や、総理庁官房人事課長提出の履歴書等の他証拠により十分認定が可能である。次に、受託収賄の核心事実に関する聴取書(ロ)についても、これを除外したとしても、被告人の公判供述、贈賄側(B)の被告人兼証人としての供述、融資に関連する証人(G)の供述、その他原判決が挙示する各証拠を総合すれば、融資斡旋の請託と謝礼の受領という犯罪事実は十分に認定できる。したがって、仮に逮捕手続等に所論のような違法があったとしても、判決の結論を左右するものではないといえる。
結論
本件各上告を棄却する。手続上の違法の有無にかかわらず、他の適法な証拠により事実認定が維持される以上、原判決を破棄すべき理由とは認められない。
実務上の射程
憲法75条(国務大臣の特典)の解釈そのものよりも、違法収集証拠の証拠能力や、手続的瑕疵が判決に及ぼす影響に関する実務的判断を示したもの。答案上は、手続の違法を前提としつつも、証拠排除の帰結として「判決への影響」を検討する際の論法として活用できる。
事件番号: 昭和25(あ)1657 / 裁判年月日: 昭和28年7月10日 / 結論: 棄却
一 被疑者として警察に身柄を拘束されていた間に弁護人との面接時間が二分ないし三分と指定され、しかも右面接の際警察官が立ち会つていた事実があつたとしても、右被疑者が検事に対してなした自白に任意性があるか否かは、それらの事由とは関係なくその自白をした当時の情況に照らして判断すべきである。 二 被告人Aの検事に対する供述調書…