別件記録によれば、Aが収賄の事実につき賄賂としての認識がなかつたものとして無罪を言渡されていることが認められるが、これがため本件(右Aに対する贈賄の事実)につき刑訴四三五条所定の再審の事由が存するものとは認められない。
収賄者乙が収賄の事実につき無罪になつたところで贈賄者甲の有罪判決について再審事由があるといえない
刑訴法435条,刑訴法411条4号
判旨
供述調書が事実認定の証拠として用いられる場合、それが唯一の証拠ではなく他の供述証拠等と総合して判断されているのであれば、憲法37条2項後段(証人審問権)等の憲法違反の問題は生じない。
問題の所在(論点)
特定の検察官面前調書を証拠として採用し、他の証拠と総合して事実認定を行うことが、憲法が保障する適正手続きや証人審問権の観点から許容されるか。また、それが「唯一の証拠」による有罪認定に当たるか。
規範
特定の供述証拠(検察官面前調書等)を事実認定に用いることが、直ちに憲法違反となるわけではない。判決が複数の証拠(証人供述、被告人の供述調書、他人の検察官面前調書等)を総合して事実を認定している場合には、特定の調書を証拠としたことが直ちに「唯一の証拠」に基づく認定とはならず、適法な証拠判断として許容される。
重要事実
被告人が贈賄罪等に問われた事案において、原審は証人Aの検察官に対する供述調書を証拠として採用した。弁護人は、Aの公判供述等に照らせば当該調書には「信用すべき特別の情況」がなく、これを証拠採用した原審の判断には法令違反や事実誤認があると主張した。また、当該調書を唯一の証拠として有罪を認定したことは憲法違反であるとも主張して上告した。なお、別件でA(収賄側)は賄賂の認識がないとして無罪となっていた。
あてはめ
本件において、原判決はAの検察官に対する供述調書のみを根拠に事実を認定したものではない。記録によれば、原審は右調書のほかに、証人Cの供述および被告人自身の供述調書等も総合して事実を認定している。したがって、特定の供述調書を証拠として採用したことが憲法違反であるとの主張は、前提となる「唯一の証拠による認定」という事実を欠いており、採用できない。また、証拠の取捨選択は原審の裁量に属し、特段の違法は認められない。
結論
原判決に証拠則違反や憲法違反の事由は認められず、上告を棄却する。
実務上の射程
伝聞証拠の証拠能力や補強法則の議論において、事実認定が「複数の証拠の総合評価」に基づいているかを確認する際の視点として機能する。実務上は、特定の調書の信用性のみを争うのではなく、全体の証拠構造の中でその調書がどのような位置付けにあるかを検討する指針となる。
事件番号: 昭和26(あ)4720 / 裁判年月日: 昭和28年5月29日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】被告人の自白を補強する証拠として、共犯者や贈収賄の相手方など他の証拠能力ある供述を用いることは、憲法38条3項に違反しない。 第1 事案の概要:被告人が収賄の罪で起訴された事案において、第一審判決は被告人自身の供述(自白)のほかに、贈賄側である証人Aの公判廷における供述、および司法警察員や検察官に…
事件番号: 昭和27(あ)5407 / 裁判年月日: 昭和29年3月2日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】共同被告人の検察官面前供述調書は、当該被告人との関係において刑事訴訟法321条1項にいう「被告人以外の者」の供述を録取した書面に該当し、同項各号の要件を満たす限り証拠能力が認められる。 第1 事案の概要:被告人と共同被告人が起訴された事件において、第一審裁判所は共同被告人の供述調書を証拠として採用…