第一審第一二回公判期日において、右Aの検察官に対する供述調書の証拠調が行われた後、箕山弁護人からこれに対し異議の申立があつたが、裁判官は右異議申立は却下する旨を告げたうえ、反証の取調の請求その他の方法によつて証拠の証明力を争うことができる旨を告げているにかかわらず、被告人側からA証人の再尋問請求はなされた形跡もないのである。従つて右供述調書に対して「被告人が全く右A証人に対して反対訊問を試す機会が十分与えられなかつた」というのは、何ら根拠がない(同証人が第八回公判期日において取調を受けた際、被告人側が十分反対尋問の機会を与えられていることは、いうまでもない)。
刑訴三二一条一項二号後段の書面の取調の請求はその供述者に対する証人尋問中になされなければ憲法三七条二項に違反するか
憲法37条2項,刑訴法308条,刑訴法309条,刑訴法321条1項2号
判旨
刑事訴訟法321条1項2号但書にいう「供述よりも前の供述を信用すべき特別の情況」の有無は、事実審裁判所の合理的な裁量に委ねられる。また、公判で反対尋問の機会が与えられ、再尋問請求等の手段が講じられていれば、検察官面前調書の証拠能力を認めることは憲法に違反しない。
問題の所在(論点)
刑事訴訟法321条1項2号但書所定の「特信情況」の判断基準、および証人の公判供述と検察官面前調書が食い違う場合に同調書を証拠とすることが憲法・刑訴法に違反するか。
規範
刑事訴訟法321条1項2号但書の「供述よりも前の供述を信用すべき特別の情況」(特信情況)の存否については、事実審裁判所の合理的な裁量に委ねられる。また、公判期日において証人尋問が行われ、被告人側に反対尋問の機会が十分に与えられている場合には、憲法が保障する防御権や証人審問権の趣旨に反することはない。
重要事実
被告人の公判において、証人Aが第8回公判期日で供述したが、その内容は検察官に対する供述調書と実質的に異なるものであった。裁判所は第12回公判期日に同調書の証拠調べを実施。弁護人は異議を申し立てたが、裁判所はこれを却下し、反証等により証明力を争える旨を告知した。しかし、被告人側はAに対する再尋問請求を行わなかった。弁護人は、反対尋問の機会が不十分であり、特信情況の認定も誤りであるとして違憲・違法を主張し上告した。
あてはめ
まず、証人Aは第8回公判期日において取調を受けており、その際被告人側には十分な反対尋問の機会が与えられていたといえる。次に、調書の証拠調べ後、裁判所から証明力を争う手段(再尋問請求等)の教示があったにもかかわらず、被告人側がこれを行使した形跡はない。したがって「反対尋問の機会が十分与えられなかった」との主張は根拠を欠く。最後に、特信情況の有無は、事実審裁判所の合理的な裁量に属する事柄であり、本件における裁判所の判断は裁量の範囲内として是認される。
結論
本件検察官面前調書の証拠能力を認めた原判断に憲法・刑訴法違反の事由はなく、上告を棄却する。
実務上の射程
伝聞例外(刑訴法321条1項2号)の特信情況に関する古典的判例である。実務上は、外部的事況だけでなく、公判における反対尋問の機会が実質的に保障されていたかという手続的適正も考慮される。答案上では、特信情況の判断が裁判所の広範な裁量に属することを確認しつつ、反対尋問権行使の有無という事実関係をあてはめる際の根拠として活用できる。
事件番号: 昭和27(あ)560 / 裁判年月日: 昭和28年6月12日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】被告人の自白を内容とする検察官に対する供述調書は、任意性が認められる限り、刑事訴訟法322条1項により証拠能力が認められ、特に信用すべき情況(特信情況)の有無を問わない。 第1 事案の概要:贈賄被告事件において、被告人が検察官に対して自白を内容とする供述を行い、その旨の供述調書が作成された。弁護人…
事件番号: 昭和27(あ)5407 / 裁判年月日: 昭和29年3月2日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】共同被告人の検察官面前供述調書は、当該被告人との関係において刑事訴訟法321条1項にいう「被告人以外の者」の供述を録取した書面に該当し、同項各号の要件を満たす限り証拠能力が認められる。 第1 事案の概要:被告人と共同被告人が起訴された事件において、第一審裁判所は共同被告人の供述調書を証拠として採用…