一 被疑者として警察に身柄を拘束されていた間に弁護人との面接時間が二分ないし三分と指定され、しかも右面接の際警察官が立ち会つていた事実があつたとしても、右被疑者が検事に対してなした自白に任意性があるか否かは、それらの事由とは関係なくその自白をした当時の情況に照らして判断すべきである。 二 被告人Aの検事に対する供述調書を検討すると同被告人は検事から黙祕権を告げられた後任意に供述し且つ供述を録取した後これを読聞けられその誤のないことを認めた上で署名押印しており、しかもその供述内容は自然であつて首肯せしめるものがありその間に何者矛盾のないことが認められ同被告人の供述が直接その取調に当つた検事の不当な影響の下になされたことを疑わしめるに足る形跡は少しも認められない。 三 刑訴三二一条一項二号但書により検察官の面前における供述を録取した書面を証拠とするに当り該書面の供迷が公判準備又は公判期日における供述より信用すべき特別の情況が存するか否かは結局事実審裁判所の裁量に委されているものと解するのが相当である(昭和二六年(あ)第一一一一号同年一一月一五日第一小法廷判決参照)。
一 警察に身柄拘束中の被疑者と弁護人との面接時間が短時間であつたこと等と右被疑者が検事に対してなした自白の任意性の有無との関係 二 被告人の検察官に対する供述の任意性の有無についての判断基準の一事例 三 刑訴第三二一条第一項第二号但書の規定の趣旨
刑訴法30条,刑訴法39条,刑訴法319条,刑訴法430条,刑訴法431条,刑訴法322条,刑訴法321条1項2号
判旨
接見交通権の不当な制限等の違法な捜査手続があったとしても、直ちに自白の任意性が否定されるわけではなく、自白をした当時の状況に照らして任意性の有無を判断すべきである。捜査手続の不当と自白との間に因果関係が認められない場合には、当該自白を証拠とすることは適法である。
問題の所在(論点)
接見交通権の不当な制限(刑訴法39条違反)等の捜査手続の違法が、その後に作成された自白調書の任意性(刑訴法319条1項)および証拠能力にどのような影響を及ぼすか。
規範
自白の任意性の有無は、接見交通権の制限等の不当な措置が採られたことのみから直ちに断定すべきではなく、その自白をした当時の状況に照らして判断すべきである。不当な措置と自白との間に因果関係が認められない限り、当該自白の証拠能力は否定されない。
事件番号: 昭和58(あ)1324 / 裁判年月日: 平成元年1月23日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】検察官が取調中を理由に弁護人の接見を一時的に拒んだとしても、直前に別の弁護人と接見し、かつ前日までにも頻繁に弁護人らと接見していた等の事情があれば、当該自白の任意性は否定されない。 第1 事案の概要:被告人Bは、詐欺及び恐喝被疑事件で勾留中、余罪である贈収賄の取調べを受けていた。昭和41年12月2…
重要事実
被告人Aは、身柄拘束中に弁護人との面接時間を2分ないし3分に制限されるという不当な接見制限を受けた。その後、検察官の取調べにおいて贈賄の事実を自白し、検察官面前供述調書が作成された。一審及び原審が当該調書を証拠として採用したため、被告人側が接見交通権の制限という違憲・違法な手続によって得られた自白であり任意性に疑いがあるとして上告した。
あてはめ
本件における接見時間の制限は防御準備のために余りにも短時間で不当であるが、被告人は検察官から黙秘権を告げられた上で任意に供述し、内容も自然で矛盾がない。警察官による自白の強制が検察官に対する自白に影響を及ぼした形跡もなく、検察官の不当な影響も認められない。したがって、接見制限という不当な措置と検察官に対する自白との間には因果関係が認められないため、自白の任意性は否定されない。
結論
被告人Aの検察官に対する供述調書を証拠に採用したことは適法であり、上告を棄却する。
実務上の射程
捜査段階の違法が自白の証拠能力に及ぼす影響について、「因果関係」を基準に判断した事例。実務上は、違法な接見制限があった場合でも、その後の取調べが適正であれば直ちに証拠排除されないという文脈で引用されるが、現代の違法収集証拠排除法則の観点からは、因果関係の有無をより厳格に検討する必要がある。
事件番号: 昭和27(あ)4491 / 裁判年月日: 昭和29年1月26日 / 結論: 棄却
論旨は被告人が当時病状にあつたことを主張し、記録上その事実は認められないことはないが、そうだとしても、単にそれだけのことで前記警察における供述が強制、拷問、又は脅迫によるものと即断することはできない。