原判決は右の訊問調書中の被告人の供述記載を証拠として採用しているのであるからそれは勾引後五一日目の自白である(論旨がこれを約八〇日後の自白と言つているのは誤りである)。しかし被告人はこの時に先つて未だ身柄を拘束されなかつた昭和二二年二月三日の警察の取調において既に大体の事実を自白しており、同月二六日の勾留訊問の際にも自白しているから、身体の拘束と自白との間に因果関係が無かつた場合と云わなければならない。かような場合に憲法三八条二項の違反ありと言い得ないことは当裁判所の判例(昭和二二年(れ)第二七一号同二三年六月二三日大法廷判決)の示すとおりである。
身体の拘束と自白との間の因果関係のない一事例
憲法38条2項,刑訴法319条1項
判旨
不当に長い拘禁(憲法38条2項、刑訴法319条1項)による自白の証拠能力否定については、身柄拘束と自白との間に因果関係があることを要し、拘束前に自白していた等の事情があれば因果関係は否定される。
問題の所在(論点)
勾留から51日という期間経過後になされた自白が、「不当に長い拘禁」後の自白として証拠能力を否定されるか。特に、拘禁と自白との間の因果関係の要否が問題となる。
規範
憲法38条2項及び刑訴法319条1項が「不当に長く抑留又は拘禁された後の自白」を証拠とできないとする趣旨は、虚偽の自白を誘発するおそれや人権侵害を防止する点にある。したがって、同規定により自白の証拠能力が否定されるためには、当該身体の拘束と自白との間に因果関係が存在しなければならない。
重要事実
被告人は収賄被疑事件において、昭和22年2月25日に勾引、翌26日に勾留された。その後、同年4月16日の予審において、勾留から51日目に自白を行った(原審はこの供述を証拠採用した)。しかし、被告人は身柄を拘束される前の同年2月3日の警察の取調べにおいて既に事実を自白しており、また勾留直後の2月26日の訊問時においても同様に自白をしていた。
あてはめ
被告人は、本件で問題となっている勾引・勾留による身体拘束を受けるより前の段階(警察による取調べ時)において、既に大体の事実を自白している。また、拘留開始直後の段階でも自白を維持している。そうであれば、拘留から51日後の予審における自白は、長期間の拘束によって心理的圧迫を受けて得られたものとはいえず、身体の拘束と自白との間に因果関係がないと認められる。したがって、憲法38条2項に違反する事態にはあたらない。
結論
身体の拘束と自白との間に因果関係がない場合には、たとえ拘禁期間が長期に及んでいたとしても、憲法38条2項(及び刑訴法319条1項)違反とはならず、証拠能力は認められる。
実務上の射程
不当に長い拘禁を理由とする自白の証拠能力争いにおいて、弁護側は拘束と自白の因果関係を主張し、検察側は拘束前の自白や任意性の維持を反論の根拠とする際の枠組みとして機能する。本判決は、単なる期間の長さだけでなく、自白に至る経緯(先行する自白の有無)を因果関係の判断において重視している。
事件番号: 昭和24(れ)979 / 裁判年月日: 昭和24年10月1日 / 結論: 棄却
論旨は被告人の檢察官に對する供述は不當に長く拘禁された後の自白であるから證據とすることができないものであると主張するけれども被告人の勾留は昭和二二年一〇月三日であつて檢察官の第一回聽取書は同月九日、第二回聽取書は同月一一日に作成されたものであるから右聽取書における被告人の自白が不當に長く拘禁された後の自白でないことは明…