論旨は被告人の檢察官に對する供述は不當に長く拘禁された後の自白であるから證據とすることができないものであると主張するけれども被告人の勾留は昭和二二年一〇月三日であつて檢察官の第一回聽取書は同月九日、第二回聽取書は同月一一日に作成されたものであるから右聽取書における被告人の自白が不當に長く拘禁された後の自白でないことは明かである。檢察官の第三回聽取書の作成は同年一一月一二日であつて勾留後四〇日目であるがしかしその間檢察官によつて取調べられた本件關係者の數は三十數名の多數に上り、被告人の犯罪事實は九個に及ぶのであつて、かような複雜な事件の取調をするについて四〇日と云う期間は必ずしも不當な長期拘禁とは云へない。
勾留後四〇日目にした自白と不當に長い拘禁後の自白
憲法38條2項,刑訴應急措置法10條2項
判旨
憲法38条2項にいう「不当に長く抑留又は拘禁された後の自白」に該当するか否かは、単なる期間の長短のみならず、事件の複雑性や取調べの必要性等の諸事情を総合して判断すべきである。
問題の所在(論点)
憲法38条2項および刑事訴訟法に基づき、勾留後40日目に作成された検察官聴取書における自白が「不当に長く拘禁された後の自白」として証拠能力を否定されるべきか。
規範
自白の証拠能力が否定される「不当に長い拘禁」にあたるか否かは、身拘束の期間のみによって形式的に判断されるものではなく、被疑事実の件数、関係者の人数、事案の複雑性といった捜査上の必要性と照らし、その期間の合理性を実質的に検討して判断する。
重要事実
被告人は昭和22年10月3日に勾留され、検察官による第1回および第2回の聴取書は勾留から6日目および8日目に作成された。その後、第3回の聴取書が作成されたのは勾留後40日目であった。本件は被告人の犯罪事実が9個に及び、検察官が取り調べた関係者も30名以上の多数に上る複雑な事件であった。
あてはめ
勾留後6日および8日目の自白については、期間が極めて短く、不当な長期拘禁にあたらない。また、勾留後40日目の自白についても、被告人の犯罪事実が9個と多岐にわたり、かつ関係者も30名を超える多数に上っている。このような複雑な事案を解明するための取調べ期間として、40日という期間は必ずしも不当に長いものとはいえない。したがって、右自白は任意性に疑いのある不当な拘禁下のものとは評価できない。
結論
本件自白は、不当に長く拘禁された後の自白には該当せず、証拠能力が認められる。
実務上の射程
憲法38条2項の「不当に長い拘禁」の判断基準を示した重要判例である。答案上では、自白の任意性を争う場面において、単に拘禁日数を指摘するだけでなく、事案の性質(余罪の数、共犯者の有無、証拠の散逸状況等)に基づき、その期間が捜査上必要かつ相当な範囲内といえるかを論述する際の規範として用いる。
事件番号: 昭和28(れ)32 / 裁判年月日: 昭和28年10月20日 / 結論: 棄却
原判決は右の訊問調書中の被告人の供述記載を証拠として採用しているのであるからそれは勾引後五一日目の自白である(論旨がこれを約八〇日後の自白と言つているのは誤りである)。しかし被告人はこの時に先つて未だ身柄を拘束されなかつた昭和二二年二月三日の警察の取調において既に大体の事実を自白しており、同月二六日の勾留訊問の際にも自…