判旨
「不当に長い拘禁」後の自白に当たるか否かは、逮捕後の経過日数のみならず、事案の内容、取調の経過その他諸般の事情を総合して判断すべきである。28日から35日程度の拘禁後の自白であっても、諸般の事情に照らし直ちに証拠能力を否定されるものではない。
問題の所在(論点)
逮捕から自白まで28日から35日にわたる拘禁が継続していた場合、当該自白は憲法38条2項および刑訴法319条1項の「不当に長く拘禁された後の自白」として、証拠能力が否定されるか。
規範
憲法38条2項及び刑訴法319条1項にいう「不当に長く拘禁された後の自白」に該当するか否かは、単に逮捕・拘留後の経過日数のみをもって形式的に判断すべきではなく、事案の内容、取調の経過、その他諸般の事情を総合的に考慮し、自白の任意性に疑念が生じるような不当な拘禁であったかという観点から判断する。
重要事実
被告人は昭和29年3月19日に窃盗事件(第一事実)の嫌疑で逮捕・勾留され、同年4月9日に一旦釈放された。しかし、同日直ちに別の窃盗事件(第二事実)の嫌疑で再逮捕・勾留され、同月26日に保釈された。この間、被告人は第一事実について4月15日・16日に、第二事実について4月22日にそれぞれ検察官に対し自白した。逮捕から自白に至るまでの期間は、それぞれ28日間および35日間であった。
あてはめ
本件において、被告人が自白に至るまでの日数が28日ないし35日であることは記録上明らかである。しかし、本件事案の内容(複数の窃盗事件)や取調の具体的な経過、その他諸般の事情を総合的に勘案すれば、直ちに「不当に長い拘禁」とまでは評価できない。また、記録上、弁護人に依頼する権利の妨害や、強制・誘導等の事実も認められず、自白の任意性を欠く事情は存在しない。したがって、本件自白は憲法及び刑訴法の禁止する不当な拘禁下の自白には当たらないと解される。
結論
本件自白は不当に長く拘禁された後の自白とはいえず、証拠能力を肯定した原判決に違憲・違法はない。
実務上の射程
自白の証拠能力(任意性)に関する規範として、拘禁期間の長短のみならず「事案の内容・取調経過・諸般の事情」を考慮する総合評価枠組みを示すもの。答案では、長期拘束を理由に証拠能力を争う際、単なる日数の指摘に留まらず、事件の複雑性や取調の態様(再逮捕の当否等)と相関させて論じる際の指標となる。
事件番号: 昭和27(あ)3853 / 裁判年月日: 昭和28年10月16日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】逮捕・勾留の翌日になされた自白については、不当に長い拘留後の自白(憲法38条2項、刑訴法319条1項)には当たらず、その証拠能力は否定されない。 第1 事案の概要:被告人は昭和26年7月31日に逮捕され、即日勾留された。その翌日である同年8月1日に、司法警察員に対して犯罪事実を認める供述(自白)を…