夜間二回に亘り路上で他人の自転車二台を窃取したという事実につき、検挙以来、終始、右窃盗の事実を否認し、同自転車はいずれもその頃氏名不詳の者二人から買受けたものであると弁解していた被告人が、第一審で有罪の判決を受け控訴中、逮捕、勾留後約九ケ月を経た第二審第三回公判で初めて右窃盗の自白をした場合、それが同公判における弁護人の質問の際になされたものであるばかりでなく、右窃盗の一つについては、賍品が転々とした結果、関係人の数も多く、しかも被告人の否認には不自然なところがあつて、有罪の証拠は揃つており、被告人がただ保釈を受けたいとの一念から自白したものとは到底認められないときは、これをもつて憲法第三八条第二項にいう「不当に長く抑留若しくは拘禁された後の自白」であるということはできない。
憲法第三八条第二項にいう「不当に長く抑留若しくは拘禁された後の自白」にあたらないとされた事例。
憲法38条2項,刑訴法319条1項,刑法235条
判旨
不当に長い拘禁後の自白の証拠能力について、拘禁が不当か否かは諸般の事情を考慮して具体的に決すべきであり、拘禁と自白との間に因果関係がない場合には、当該自白は憲法38条2項により禁止されない。
問題の所在(論点)
逮捕・拘留から約9か月が経過した後の公判廷での自白が、憲法38条2項の「不当に長く抑留若しくは拘禁された後の自白」として証拠能力を否定されるか。特に拘禁の不当性の判断基準と因果関係の要否が問題となる。
規範
1. 憲法38条2項にいう「不当に長い拘禁」か否かは、単なる時間の長短のみで抽象的に決せられるものではなく、犯罪の個数、関係人の数、取調べの経過、難易等、諸般の事情を考慮して具体的に判断すべきである。 2. 抑留または拘禁と自白との間に因果関係がないことが明らかである場合には、当該自白は「不当に長く拘禁された後の自白」には当たらない。
重要事実
被告人は、自転車2台の窃盗(窃盗罪)の疑いで検挙された。被告人は検挙以来一貫して犯行を否認していたが、逮捕・拘留から約9か月が経過した第2審の第3回公判において、弁護人の質問に対し自白に転じた。被告人側は、この自白が不当に長い拘禁後のものであるとして、その証拠能力を争った。
あてはめ
1. 拘禁の不当性:本件は自転車2台の窃盗という比較的軽微な事案であるが、賍品が転々としたことで関係人が多く、被告人が一貫して否認し「他から買った」との弁解を続けていたため、取調べや立証に相応の時間を要する事情があった。よって、時間の経過のみをもって直ちに不当とは断じられない。 2. 因果関係:当該自白は、長期間の身体拘束を経てなされたものであるが、密室での取調べではなく、第2審の公判廷において弁護人の質問に答える形で行われたものである。記録上、有罪証拠は既に揃っており、自白が虚偽であるとも認められない。したがって、拘束の長さと自白との間に、自白を強制させるような因果関係は認められない。
結論
本件自白は、憲法38条2項にいう不当に長い拘禁後の自白には当たらず、証拠能力を有する。したがって、本件上告を棄却する。
実務上の射程
自白排除法則(憲法38条2項、刑訴法319条1項)の検討において、期間の長さのみならず「事案の複雑性」や「公判廷での自白」という態様を考慮して因果関係を否定する際の有力な論拠となる。実務上は、不当な拘禁が自白を誘発したという心理的因果関係の有無が核心となる。
事件番号: 昭和27(あ)5248 / 裁判年月日: 昭和29年3月2日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】不当に長く拘留された後の自白であっても、身柄拘束に違法性が認められず、かつ拘束と自白との間に因果関係が認められない場合には、憲法38条2項により証拠能力が否定されることはない。 第1 事案の概要:被告人は、司法警察員に対する供述調書の段階から犯行全部を認めていた。その後、被告人は保釈を請求したが、…