判旨
不当に長い拘禁後の自白(刑訴法319条1項)に該当するか否かは、逮捕から自白までの期間、事案の性質、拘束の態様等を総合的に考慮して判断される。逮捕から10日経過後の自白について、事案の性質等に照らし不当に長い拘束下の自白とはいえないと判断された。
問題の所在(論点)
逮捕から10日が経過した時点で行われた自白が、刑事訴訟法319条1項にいう「不当に長く抑留若しくは拘禁された後の自白」として、証拠能力が否定されるべきか。
規範
憲法38条2項及び刑事訴訟法319条1項の「不当に長く抑留又は拘禁された後の自白」とは、身柄拘束の期間が、事案の性質、被疑者の状況、取調べの経過等に照らし、自白を得るための不当な手段として用いられた、あるいは自白の任意性に疑念を生じさせるほどに長期間に及んだ場合を指す。判断にあたっては、逮捕から自白に至るまでの実日数のほか、事件の複雑性や困難性等を総合考慮する。
重要事実
被告人は昭和31年6月18日に逮捕状により逮捕され、同月20日に勾留状が執行された。その後の同年6月28日に検察官に対して自白を含む供述を行い、供述調書が作成された。自白は、逮捕から10日が経過した時点でのものであった。第一審において被告人及び弁護人は、当該調書を証拠とすることに同意していた。
あてはめ
本件における逮捕から自白までの期間は10日間である。この期間は、刑事手続上の勾留期間の制限(刑訴法208条等)等に照らしても特段に異常な長期とはいえない。また、本件の事案の性質(詳細は判決文からは不明だが、原判決が認定した事実に照らし肯認されている)を考慮しても、この程度の身柄拘束期間が自白を強要するための不当な抑留に該当するとは認められない。したがって、本件自白は不当な拘禁の結果得られたものとは評価されない。
結論
本件自白は「不当に長く抑留又は拘禁された後の自白」には当たらず、証拠能力を有する。したがって、上告は棄却される。
実務上の射程
自白の任意性(刑訴法319条1項)が争われる事案において、身柄拘束期間の長さのみをもって直ちに証拠能力が否定されるわけではないことを示す。実務上は、10日程度の通常の勾留期間内での自白であれば、他の不当な取調べ態様がない限り、本規定により排除される可能性は低い。答案上は、期間の長さだけでなく事案の複雑性や取調べの適正さと併せて総合考慮する際の指標として用いる。
事件番号: 昭和23(れ)1097 / 裁判年月日: 昭和23年11月30日 / 結論: 棄却
右の如く勾留は二ケ月に足らぬものであり、しかも保釋後一〇ケ月を經て不拘束の状態においてなされた自白であるから、かかる自白は法にいう不當に長い抑留後の自白に該當しないものと見るを相當とする。