右の如く勾留は二ケ月に足らぬものであり、しかも保釋後一〇ケ月を經て不拘束の状態においてなされた自白であるから、かかる自白は法にいう不當に長い抑留後の自白に該當しないものと見るを相當とする。
二ケ月の勾留後保釋一〇ケ月を經て不拘束の状態においてなされた、自白と刑訴應急措置法第一〇條第二項の「不當に長い抑留後の自白」
刑訴應急措置法10條2項
判旨
不当に長い抑留後の自白として証拠能力が否定されるためには、自白が拘禁状態の影響下でなされたといえる実質的な関係が必要である。保釈により身柄拘束が解かれた後、相当期間を経過してなされた公判廷での自白は、これに該当しない。
問題の所在(論点)
被告人が約2ヶ月間の勾留を受けた後、保釈され、その約10ヶ月後の公判廷においてなされた自白が、刑事訴訟法の応急的措置に関する法律10条1項(現行刑訴法319条1項)にいう「不当に長く抑留された後の自白」に該当するか。
規範
「不当に長い抑留」後の自白(憲法38条2項、刑訴法319条1項)に該当し証拠能力が否定されるか否かは、抑留の期間のみならず、自白時における身柄拘束の有無、抑留解除から自白までの経過期間、及び自白がなされた場所(公判廷か否か)等の諸状況を総合し、抑留による心理的強制が自白に影響を及ぼしているかという観点から判断すべきである。
重要事実
被告人は昭和22年5月22日に起訴と同時に勾留されたが、同年7月18日に保釈を許された。その後、身柄拘束を受けていない状態で、保釈から約10ヶ月が経過した昭和23年6月19日の原審公判廷において、本件の自白を行った。
あてはめ
本件において、被告人の勾留期間は2ヶ月に満たないものであり、その期間自体が直ちに不当に長いとは断じがたい。さらに、当該自白は保釈によって身柄の拘束を解かれた後、10ヶ月という十分な期間を経てなされている。このような不拘束の状態かつ公判廷という場においてなされた自白は、過去の抑留による不当な心理的圧迫の下でなされたものとは認められない。
結論
本件自白は「不当に長い抑留後の自白」には該当せず、証拠能力を有する。したがって、これを証拠として採用した原判決に憲法及び法律違反の違法はない。
実務上の射程
自白の任意性・証拠能力を争う際、先行する違法または不当な拘束がある場合でも、保釈等による拘束の解消や時間の経過、公判廷での供述といった「汚染の遮断」を示す事実があれば、証拠能力が肯定される根拠として利用できる。自白法則の趣旨が虚偽排除および人権尊重にあることを踏まえた、実質的な判断枠組みを示している。
事件番号: 昭和26(あ)1856 / 裁判年月日: 昭和26年9月25日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】不当に長い拘禁後の自白(憲法38条2項、刑訴法319条1項)に該当するか否かは、勾留状の執行から自白に至るまでの期間や公判手続の経過、証拠同意の有無等を総合して判断される。不当に長い勾留後の自白でないことが自明であり、自白の任意性に疑いがない場合には、証拠能力は否定されない。 第1 事案の概要:被…