判旨
被告人が氏名等を偽り、共犯者の逃走の嫌疑がある等の事情により勾留が延長された場合において、拘禁後1か月余でなされた自白や、公判期日の延期により逮捕から約80日後に反復された公判階述は、不当に長い拘禁後の自白にあたらない。
問題の所在(論点)
逮捕から約80日が経過した後の公判廷における自白が、憲法38条2項および刑訴法319条1項の「不当に長い拘禁後の自白」として証拠能力を否定されるか。
規範
憲法38条2項および刑訴法319条1項にいう「不当に長い拘禁後の自白」にあたるかは、単に拘禁の期間のみならず、事案の内容、取調べの経過、被告人の態度、公判期日延期の経緯その他諸般の事情を総合的に考慮して判断される。
重要事実
被告人は現行犯逮捕後、氏名・住所を偽ったため、警察による身元特定に時間を要した。共犯者逃走の嫌疑もあり勾留期間が延長され、逮捕から約1か月後に捜査段階で自白した。その後起訴されたが、第1回公判期日が私選弁護人の病気欠席により延期された。結果として、逮捕から約80日経過した第2回公判期日において、「事実は認めます」との自白の反復がなされた。
あてはめ
まず、捜査段階での自白は拘禁後1か月余でなされている。被告人が氏名等を偽秘したことによる身元照会の必要性や共犯者の存在等の諸事情に照らせば、この期間は不当に長い拘禁とはいえない。次に、公判廷での自白は逮捕から約80日後であるが、これは捜査段階の自白の反復である。また、期間の長期化は弁護人の病気による公判延期という被告人側の事情に起因する。したがって、本件自白が不当に長い拘禁によって得られたものとは評価できない。
結論
本件自白は「不当に長い拘禁後の自白」には該当せず、憲法38条2項に違反しないため、証拠能力が認められる。
実務上の射程
自白の証拠能力(自白法則)の論点において、期間の長短を形式的に判断せず、被告人の秘匿工作や弁護人側の事情といった個別事情によって不当性が否定される枠組みを示す際に引用すべき判例である。
事件番号: 昭和25(あ)1096 / 裁判年月日: 昭和25年11月16日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】憲法38条2項にいう「不当に長い拘禁後の自白」に該当するか否かは、単なる期間の長短だけでなく、事案の軽重、審判の難易、罪証隠滅の危険等の諸般の事情を総合考慮し、その拘禁が必要な限度を超えていたかにより判断すべきである。 第1 事案の概要:被告人は、第一の事実により起訴され、罪証隠滅の疑いがあるとし…