判旨
憲法38条2項にいう「不当に長い拘禁後の自白」に該当するか否かは、単なる期間の長短だけでなく、事案の軽重、審判の難易、罪証隠滅の危険等の諸般の事情を総合考慮し、その拘禁が必要な限度を超えていたかにより判断すべきである。
問題の所在(論点)
勾留開始から約4か月(129日)が経過した後の自白が、憲法38条2項にいう「不当に長く拘禁された後の自白」として証拠能力を否定されるべきか。
規範
憲法38条2項が「不当に長い拘禁後の自白」を禁止した趣旨は、長期の拘禁による精神的苦痛が自白を強制する心理的圧力となることを防ぎ、自白の任意性を保障する点にある。したがって、その該当性は単に拘禁期間の日数のみで形式的に決すべきではない。具体的には、被拘禁者の一身上の事由のほか、事案の軽重、審判の難易、逃亡の恐れ、証憑隠滅の危険性等の客観的諸事情を斟酌し、その拘禁が身柄拘束の必要の限度を超えてなされたと認められるか否かという実質的観点から判断すべきである。
重要事実
被告人は、第一の事実により起訴され、罪証隠滅の疑いがあるとして勾留された。第一回公判から回を重ね、勾留開始から129日目(追起訴からは36日目)の第六回公判において、第一の事実については否認しつつも、追起訴にかかる第二・第三の事実について自白した。被告人側は、この自白は不当に長い拘禁後になされたものであり、証拠能力が否定されるべきであると主張して上告した。
あてはめ
本件における129日という勾留期間は、被告人の立場から見れば長期にわたるものといえる。しかし、本件では当初の起訴事実について罪証隠滅の相当な理由が存在したこと、公判が継続し訴因変更や追起訴がなされるなど審理が進展していたことが認められる。これらの諸般の事情を総合すれば、当該勾留が審判の必要限度を超えた不当なものとは断定できない。したがって、本件自白が不当に長い拘禁の後に得られたものとは認められず、任意性に疑いを生じさせるような状況にはなかったといえる。
結論
本件自白は「不当に長い拘禁後の自白」には当たらず、証拠能力を有する。したがって、これを証拠として事実認定を行った原判決に憲法違反の違法はない。
実務上の射程
自白の任意性(刑訴法319条1項、憲法38条2項)が争われる場面で、拘禁期間の長さが問題となる際の判断枠組みとして活用する。答案上は、まず「不当に長い拘禁」を「必要性を超える拘禁」と定義した上で、事案の複雑性や罪証隠滅の恐れといった具体的要素をあてはめる際の指針となる。
事件番号: 昭和23(れ)417 / 裁判年月日: 昭和23年10月6日 / 結論: 棄却
一件記録によると、被告人が司法警察官に自白をしたのは被告人が警察署に留置された日から一一、二日目であつて、その自白をした日から六、七日目に檢事に對して自白していることが肯認される。そして本件は統制品の闇賣買に關する詐欺事件であつて、被害者は二名で他に仲介者二名が介在しており、犯行は廣島市内で行はれたが、被害者や仲介者一…
事件番号: 昭和41(あ)351 / 裁判年月日: 昭和41年9月6日 / 結論: 棄却
本件のように、事案が複雑で、関係人が多数に上り、捜査にかなりの日数を要するのもやむをえないと認められる事情のある場合には、所論の一七九日ないし一九二日の拘禁後の自白であつても、不当に長く抑留または拘禁されたのちの自白に当るものといえないことは、当裁判所大法廷の判例(昭和二二年(れ)第三〇号同二三年二月六日判決刑集二巻二…