本件のように、事案が複雑で、関係人が多数に上り、捜査にかなりの日数を要するのもやむをえないと認められる事情のある場合には、所論の一七九日ないし一九二日の拘禁後の自白であつても、不当に長く抑留または拘禁されたのちの自白に当るものといえないことは、当裁判所大法廷の判例(昭和二二年(れ)第三〇号同二三年二月六日判決刑集二巻二号一七頁、昭和二三年(れ)第四三五号同年一〇月六日判決刑集二巻一一号一二七五頁参照)の趣旨に照らし明らかである。
一七九日ないし一九二日の拘禁後の自白と不当に長い抑留もしくは拘禁後の自白
憲法38条2項,刑訴法319条1項
判旨
不当に長い拘禁後の自白(憲法38条2項、刑訴法319条1項)に該当するか否かは、単に拘禁の期間のみならず、事案の性質や捜査の必要性等の諸事情を総合して判断すべきである。事案が複雑で多数の関係者が存在するなど、捜査に日数を要するのがやむを得ないと認められる場合には、180日前後の拘禁後の自白であっても、直ちに証拠能力が否定されるものではない。
問題の所在(論点)
当初の身柄拘束から約180日が経過した後になされた自白が、憲法38条2項及び刑訴法319条1項にいう「不当に長く抑留又は拘禁された後の自白」に該当し、証拠能力が否定されるか。
規範
「不当に長く抑留又は拘禁された後の自白」として証拠能力が否定されるか否かは、身柄拘束の期間だけでなく、事案の複雑性、関係人の多寡、捜査の進捗状況等の具体的事情に照らし、その期間の拘禁がやむを得ないものといえるかという観点から判断する。
重要事実
被告人は、別件の被疑事実により身柄拘束を受けて起訴された後、余罪捜査が継続される中で本件の自白を行った。当初の身柄拘束から当該自白がなされるまでの期間は、179日から192日の長期間に及んでいた。しかし、本件は事案が複雑であり、かつ関係人が多数に上るという特殊な事情が存在していた。
あてはめ
本件における179日ないし192日という拘禁期間は、一見すると長期間である。しかし、本件は事案が複雑で関係人も多数に上るという性質を有しており、余罪捜査の遂行にかなりの日数を要することもやむを得ない事情があったといえる。このような捜査上の必要性が認められる状況下においては、右期間経過後の自白であっても、直ちに心理的圧迫等による不当な拘禁下での自白とは評価できず、不当に長い拘禁後の自白には当たらない。
結論
本件自白は「不当に長く抑留又は拘禁された後の自白」には当たらず、証拠能力は肯定される。
実務上の射程
自白の任意性法則(特に不当拘禁)に関する判断枠組みを示す。期間の長短という形式的基準だけでなく、事案の複雑性や捜査の困難性といった実質的必要性によって「不当性」が限定されることを示しており、長期勾留中の余罪取調べの限界を検討する際の指標となる。
事件番号: 昭和23(れ)417 / 裁判年月日: 昭和23年10月6日 / 結論: 棄却
一件記録によると、被告人が司法警察官に自白をしたのは被告人が警察署に留置された日から一一、二日目であつて、その自白をした日から六、七日目に檢事に對して自白していることが肯認される。そして本件は統制品の闇賣買に關する詐欺事件であつて、被害者は二名で他に仲介者二名が介在しており、犯行は廣島市内で行はれたが、被害者や仲介者一…