一件記録によると、被告人が司法警察官に自白をしたのは被告人が警察署に留置された日から一一、二日目であつて、その自白をした日から六、七日目に檢事に對して自白していることが肯認される。そして本件は統制品の闇賣買に關する詐欺事件であつて、被害者は二名で他に仲介者二名が介在しており、犯行は廣島市内で行はれたが、被害者や仲介者一名は神戸市に居住する者で共犯者のAは逃亡中で被告人は窃盜詐欺及び窃盜の前科あるものであること一件記録で明らかなところである。さればかかる事情から推斷すれば、被告人に對する拘束は不當に長いものとは認めることができない。それ故第二審判決は檢事に對する被告人の自白を斷罪の資料としたからといつて憲法第三八條第二項に違背したものだとはいえない。
憲法第三八條第二項にいわゆる「不當に長い拘禁後の自白」に該らぬ場合
憲法38條2項,刑訴應急措置法10條2項
判旨
不当に長い拘禁後の自白(憲法38条2項)の判断に際しては、事件の複雑性、関係者の居住地、共犯者の状況等の諸事情を総合して判断すべきである。また、自白内容を裏付ける関係者の供述がある場合には、自白のみによる有罪判決(同条3項)には当たらない。
問題の所在(論点)
1. 警察署に11、2日間留置された後の自白が、憲法38条2項にいう「不当に長く抑留又は拘禁された後の自白」として証拠能力を否定されるか。 2. 共犯者や被害者の供述がある場合、自白を断罪の資料とすることは憲法38条3項(自白のみによる有罪判決の禁止)に抵触するか。
規範
自白の証拠能力に関し、拘禁の長さが不当か否かは、事案の性質(統制品の闇売買等)、被害者・仲介者の数および居住地、共犯者の逃走状況、被告人の前科等の諸事情を考慮して、社会通念上不当に長いといえるかにより判断する。また、補強証拠の存否については、証人の供述等が自白の内容を裏付けるに足りる証拠力を有するか否かを検討し、自白以外の証拠が存在する場合には憲法38条3項の禁止する「唯一の証拠が本人の自白である場合」には該当しない。
重要事実
被告人は共犯者と共謀し、生ゴムの売買を装い手附金を騙取した詐欺事件で起訴された。被告人が警察署に留置されてから自白に至るまで11、2日が経過し、その6、7日後に検事に対しても自白した。本件は統制品の闇売買という複雑な事件であり、被害者や仲介者は遠方の神戸市に居住していたほか、共犯者は逃亡中であった。また、第一審では自白以外に、被害者や仲介者の供述(取引の経緯や被告人の行動に関する証言)が証拠として提出されていた。
あてはめ
1. 本件は、被害者や仲介者が遠方に居住し、共犯者が逃亡中という捜査上の困難が認められる特殊な詐欺事件である。このような具体的事情に照らせば、11、2日の留置期間は捜査上必要かつ相当な範囲内であり、「不当に長い」拘束とは認められない。したがって、自白の証拠能力は否定されない。 2. 証人らの供述は、被告人が偽名を使って接触したことや、手附金の授受、不審な逃走等の事実を具体的に示しており、被告人の自白を裏付けるに十分な証拠力を有する。ゆえに、自白のみで有罪としたものではないと評価できる。
結論
1. 被告人に対する拘束は不当に長いものとは認められず、自白の証拠能力を認めた原審に違憲はない。 2. 他の証拠により自白が補強されているため、憲法38条3項には違背しない。
実務上の射程
拘禁期間の不当性判断において「事案の複雑性」や「捜査の進捗状況」を重視する枠組みを示した。答案上は、憲法38条2項(刑事訴訟法319条1項)の「不当に長い拘禁」を論じる際のあてはめモデルとして、単なる日数だけでなく捜査の必要性(共犯者・証拠の所在)を指摘する根拠となる。また、補強証拠の要否に関しても、実質的な証拠力の評価に踏み込む姿勢を示している。
事件番号: 昭和41(あ)351 / 裁判年月日: 昭和41年9月6日 / 結論: 棄却
本件のように、事案が複雑で、関係人が多数に上り、捜査にかなりの日数を要するのもやむをえないと認められる事情のある場合には、所論の一七九日ないし一九二日の拘禁後の自白であつても、不当に長く抑留または拘禁されたのちの自白に当るものといえないことは、当裁判所大法廷の判例(昭和二二年(れ)第三〇号同二三年二月六日判決刑集二巻二…