一 公訴事實は單純な窃盜で、數は一回被害者、被疑者各一人、被害金品は全部被害者に返還せられ、現に押收されている。事件の筋は極めて簡單で、被告人の勾留を釋いても、罪證湮滅のおそれは考へられない被告人は一定の住居と生業を有し、その住居には、母妻子六人の家族があり、相當の資産もあり、年四六歳である、從つて被告人は逃亡する危險もまずないと考えられる。しかるに被告人は昭和二二年一月一七日勾留せられ、同年五月五日第二審公判で初めて自白し、同日保釋を受けた。 二 刑訴應急措置法第一七條第一項による上告が理由ある場合には、飛躍上告でない限り原判決及び第二審判決を破毀し、事件を第二審裁判所に移送すべきものである。
一 不當に長い拘禁後の自白を有罪の證據とした判決 二 刑訴應急措置法第一七條第一項による上告理由ある場合に破毀されるべき判決
憲法38條2項,裁判所法10條1號,刑訴應急措置法17條1項,刑訴法447條,刑訴法448條ノ2第1項
判旨
憲法38条2項にいう「不当に長い拘禁」後の自白は、証拠能力が否定される。事案が単純で罪証隠滅や逃亡の恐れがないにもかかわらず、自白を得る目的で継続された長期間の拘禁はこれに該当する。
問題の所在(論点)
事案が単純で逃亡・罪証隠滅の恐れがないにもかかわらず、自白まで109日間拘禁を続けた場合、当該拘禁は憲法38条2項にいう「不当に長い拘禁」にあたるか。また、その後の自白の証拠能力は否定されるか。
規範
憲法38条2項は、不当に長い拘禁の後の自白を証拠とすることを禁じている。拘禁の不当性は、事件の性質(複雑性・件数)、証拠隠滅や逃亡の恐れの有無、被告人の生活状況・資産、及び拘禁の必要性と期間を総合考慮して判断される。特に、自白を強要するために拘禁を継続したと認められる場合には、その拘禁は「不当に長い」ものと断ぜざるを得ない。
重要事実
被告人は窃盗の容疑で逮捕・勾留された。事案は、被害者の目の届く場所でカバンを窃取したという単純なもので、被害品も即座に回収されていた。被告人は当初から一貫して「通りがかりの者から買い取った」と犯行を否認していた。被告人には一定の住居、生業、家族、相当の資産があり、逃亡の恐れも乏しかった。しかし、裁判所は保釈を認めず、被告人が第ニ審第1回公判で自白するまで、前後109日間にわたり拘禁を継続した。裁判所は、この自白を唯一の証拠として有罪を判決した。
あてはめ
本件は現行犯に近い極めて単純な事案であり、被害回復も済んでいる。被告人の属性や資産状況から逃亡の恐れはなく、否認しているからといって罪証隠滅の恐れも認められない。それにもかかわらず109日間もの拘禁を継続したことは、被告人に自白を強要するために勾留を続けたものと批難されても弁解の余地がない。したがって、本件の拘禁は客観的な必要性を欠き、不当に長い拘禁にあたるといえる。
結論
本件拘禁は憲法38条2項の「不当に長い拘禁」にあたり、その後の自白を証拠として有罪とした原判決は憲法違反として破棄を免れない。
実務上の射程
自白の任意性・証拠能力を争う際のリーディングケース。拘束期間の絶対的な長さだけでなく、事件の簡明さや被告人の属性と対比して「拘禁の必要性」が失われていることを指摘する枠組みとして活用できる。答案上は、虚偽自白を誘発する類型的な状況の一つとして、憲法38条2項・刑訴法319条1項の文脈で論じる。
事件番号: 昭和27(あ)5248 / 裁判年月日: 昭和29年3月2日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】不当に長く拘留された後の自白であっても、身柄拘束に違法性が認められず、かつ拘束と自白との間に因果関係が認められない場合には、憲法38条2項により証拠能力が否定されることはない。 第1 事案の概要:被告人は、司法警察員に対する供述調書の段階から犯行全部を認めていた。その後、被告人は保釈を請求したが、…