記録を調べてみると被告人は前に檢察官の取調べに對して本件犯行の一切を自白しておりまた保釋出所後の原審公判廷においても原判示第一事實について自白している。このような場合には、被告人の自白と勾留との間に因果關係のないことは明かなことであると認むべきあり、かかる自白は憲法第三八條第二項にいわゆる自白に當らないことは當裁判所の判例とするところである。(昭和二二年(れ)第二七一號昭和二三年六月三〇日大法廷判決)
勾留と自白との間に因果關係のないことが明白な場合と憲法第三八條第二項
憲法38條2項,刑訴應急措置法10條2項
判旨
不当に長く抑留又は拘禁された後の自白であっても、その自白と拘禁との間に因果関係がない場合には、憲法38条2項により証拠能力が否定される自白には当たらない。
問題の所在(論点)
不当に長い拘禁期間があった場合において、その後になされた自白が常に憲法38条2項により証拠能力を否定されるのか。自白と拘禁の間の因果関係の要否が問題となる。
規範
憲法38条2項が「不当に長く抑留又は拘禁された後の自白」の証拠能力を否定する趣旨は、かかる状況下での自白には虚偽が混入するおそれが強く、また不当な人権侵害を抑止する必要があるためである。したがって、被告人の自白と抑留・拘禁との間に因果関係が認められない場合には、同条項の適用はなく、証拠能力は否定されない。
重要事実
被告人は、検察官の取調べに対し犯行一切を自白していた。その後、被告人は保釈され、保釈出所後の原審公判廷においても第一事実について自白した。弁護人は、この公判廷での自白が不当に長い拘禁後の自白であり、憲法38条2項に反して証拠能力がないと主張して上告した。
あてはめ
本件において、被告人は既に検察官の取調べ段階で自白を済ませている。さらに、問題となっている原審公判廷での自白は、保釈によって身柄拘束が解かれた後になされたものである。これらの事実に照らせば、当該自白が長期の拘禁によって強制されたものとは認められず、自白と拘禁との間に因果関係はないと判断される。
結論
本件自白と拘禁との間には因果関係がないことが明白であるため、憲法38条2項にいう自白には当たらない。したがって、これを証拠とした原判決に憲法違反はない。
実務上の射程
憲法38条2項(刑事訴訟法319条1項)の「不当に長い拘禁」を理由とする自白の証拠能力否定には、拘禁と自白との間の因果関係が必要であることを示す。答案上、拘禁期間が長期に及ぶ事案では、因果関係を遮断する事情(保釈、弁護人との接見、自発的な供述開始等)の有無を検討する際に活用する。
事件番号: 昭和24(れ)979 / 裁判年月日: 昭和24年10月1日 / 結論: 棄却
論旨は被告人の檢察官に對する供述は不當に長く拘禁された後の自白であるから證據とすることができないものであると主張するけれども被告人の勾留は昭和二二年一〇月三日であつて檢察官の第一回聽取書は同月九日、第二回聽取書は同月一一日に作成されたものであるから右聽取書における被告人の自白が不當に長く拘禁された後の自白でないことは明…