また原判決は被告人の原審公判廷における金員授受の趣旨以外の事実についての自供と、被告人の司法警察官または副検事の聴取書記載の金員授受の趣旨に関する自白とを綜合して判示第一、第五及び第六の収賄の事実を認定していることも所論のとおりであるが、被告人の公判廷外における自白と公判廷における供述と相俟つて犯罪事実を認定しても憲法第三八条第三項に違反するものではなく、なお犯罪の主観的要件に属する事実についての被告人の公判廷外の自白とその客観的要件に属する事実についての被告人の公判廷における自白とを綜合して犯罪事実を認定することもまた憲法第三八条第三項に違反するものでないことは、当裁判所大法廷(昭和二三年(れ)第一七四四号同二五年一〇月一一日、昭和二四年(れ)第八二九号同二五年一一月二九日各判決)の認めるところである。
犯罪の客観的要件に属する事実についての被告人の当該裁判所公判廷の自白を、犯罪の主観的要件に属する事実の公判廷外の自白の補強証拠とすることの適否
憲法38条3項
判旨
憲法38条3項にいう「自白」に公判廷における自白は含まれず、また公判廷外の自白と公判廷での供述、あるいは主観的要件と客観的要件に関する各自白を総合して犯罪事実を認定することは憲法に違反しない。
問題の所在(論点)
1. 公判廷における自白は、憲法38条3項にいう「自白」に含まれるか(自白の補強証拠の要否)。2. 公判廷外の自白と公判廷での供述、あるいは主観的要件と客観的要件に分かれた各自白を組み合わせた事実認定は許されるか。
規範
1. 憲法38条3項の「自白」には、公判廷における被告人の自白は含まれない。2. 公判廷外の自白と公判廷における供述を相俟って犯罪事実を認定すること、および犯罪の主観的要件(授受の趣旨等)に関する公判廷外の自白と客観的要件(金員授受の事実等)に関する公判廷での自白を総合して認定することは、同項に違反しない。
重要事実
被告人は複数の収賄の事実について起訴された。原判決(二審)は、一部の収賄事実(第二ないし第四、第七)について、被告人の公判廷における自白のみを証拠として事実を認定した。また、他の収賄事実(第一、第五、第六)については、公判廷における客観的事実に関する供述と、公判廷外(司法警察官や副検事による聴取書)における授受の趣旨(主観的要件)に関する自白を総合して事実を認定した。これに対し、被告人側は「自白のみによる処罰」を禁じた憲法38条3項に違反すると主張して上告した。
あてはめ
まず、公判廷における自白は裁判官の面前でなされるものであり、憲法38条3項が想定する「自白」には当たらない。したがって、これを唯一の証拠として事実を認定しても同項違反とはならない。次に、公判廷外の自白があったとしても、それが公判廷での供述と組み合わされる場合や、主観的要件と客観的要件という異なる側面について各々の自白(公判廷内外を含む)がなされている場合、それらを総合して事実を認定することは、証拠の総合評価として許容される。これらは自白のみに基づき有罪とされる場合に該当しないため、憲法38条3項の禁止する範囲外である。
結論
被告人の公判廷における自白を唯一の証拠とした認定、および公判廷内外の自白を組み合わせて主観的・客観的要件を認定した原判決の手法に憲法違反はなく、上告を棄却する。
実務上の射程
自白の補強証拠(刑事訴訟法319条2項)に関する基礎的判例である。公判廷での自白には補強証拠が不要であるという原則と、補強証拠の要否を判断する際の「自白」の範囲、および要素ごとの自白の組み合わせによる認定の可否を示す際に引用する。
事件番号: 昭和56(あ)586 / 裁判年月日: 昭和57年6月3日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】被告人の自白のみを証拠として有罪とすることは憲法38条3項により禁じられるが、自白以外の補強証拠が存在する場合には、同条項違反の主張は前提を欠く。 第1 事案の概要:第一審判決が、所論の各事実について被告人を有罪とした。これに対し、被告人側は当該認定が自白のみに基づいているとして、憲法38条3項違…