論旨は被告人が当時病状にあつたことを主張し、記録上その事実は認められないことはないが、そうだとしても、単にそれだけのことで前記警察における供述が強制、拷問、又は脅迫によるものと即断することはできない。
病状にあつた被告人の警察における供述の任意性の有無
刑訴法322条1項,刑訴法319条1項
判旨
被告人が供述当時病状にあったとしても、直ちにその供述が強制、拷問、又は脅迫によるものと即断することはできず、他の証拠関係に照らして任意性が認められる場合には証拠能力が否定されない。
問題の所在(論点)
被告人が供述時に病状であったという身体的事実がある場合に、それのみをもって刑事訴訟法319条1項の「任意にされたものでない疑いのある自白」として証拠能力が否定されるか。
規範
自白の任意性(刑事訴訟法319条1項、憲法38条2項)の判断にあたっては、供述時の身体的状況(病状等)のみをもって直ちに強制・拷問・脅迫等による不当な干渉があったと断定することはできず、供述に至る経緯や他の客観的証拠と照らし合わせ、実質的に供述の自由が確保されていたか否かによって判断すべきである。
重要事実
被告人Aの司法警察員に対する第一回および第二回供述調書について、弁護人がその任意性を争い、証拠採用した原判決の違法を主張した。被告人は供述当時、病状にあった事実は認められるものの、検察官による弁解録取や第一回供述調書、さらには第一審の公判手続においても、自ら警察段階での供述の任意性を争う姿勢を示していなかった。一方で、弁護人は最終弁論において初めて任意性を欠く旨を主張した事案である。
あてはめ
被告人が当時病状にあった事実は記録上認められるものの、これのみをもって直ちに供述が強制、拷問、又は脅迫等の不任意な状況下で行われたものと即断することはできない。本件では、被告人自身が後の検察官調書や公判廷で警察段階の供述内容や任意性を争っておらず、取り調べに当たった警察官の証言等によっても不任意に作成されたとは認められない。したがって、病状という身体的不利な状況が存在したとしても、具体的な取調べの態様に不当な点が見出せない以上、任意性は肯定される。
結論
被告人が病状にあったとしても、それだけで自白の任意性が欠けると断定することはできず、証拠能力を認めた原判決に憲法38条2項および刑訴法319条違反はない。
実務上の射程
自白の任意性を争う際、供述者の身体的・精神的疲労や病状といった『供述者側の状況』は重要な考慮要素となるが、本判決はそれだけで直ちに証拠排除されるわけではないことを示している。実務上は、病状の程度に加えて、取調べ時間、言辞の誘導、供述者のその後の対応などの諸状況を総合考慮して「供述の自由」が侵害されたかを論じる際の有力な根拠となる。
事件番号: 昭和25(あ)1657 / 裁判年月日: 昭和28年7月10日 / 結論: 棄却
一 被疑者として警察に身柄を拘束されていた間に弁護人との面接時間が二分ないし三分と指定され、しかも右面接の際警察官が立ち会つていた事実があつたとしても、右被疑者が検事に対してなした自白に任意性があるか否かは、それらの事由とは関係なくその自白をした当時の情況に照らして判断すべきである。 二 被告人Aの検事に対する供述調書…