判旨
不法原因給付に該当する財物であっても、受託者が委託の趣旨に反してこれを処分した場合には、業務上横領罪が成立する。
問題の所在(論点)
不法原因給付(民法708条)に該当する財物であっても、受託者がこれをほしいままに処分した場合、刑法253条の業務上横領罪が成立するか。
規範
刑法253条の業務上横領罪における「他人の物」とは、民法上の所有権の帰属のみならず、委託関係に基づき適法に占有する財物を含む。たとえ給付の原因が不法なものであっても、受託者が委託の本旨に背いてほしいままに公私の区別なく処分する行為は、刑法上の保護に値する委託信託関係を侵害するものとして、横領罪の成立を妨げない。
重要事実
被告人は、一定の業務上の地位に基づき、他人から不法な目的に供するための財物の預託を受けていた。しかし、被告人はその委託の趣旨に反して、預かった財物を自己の利益のために処分した。弁護人は、当該財物の給付が不法原因給付(民法708条)に該当し、返還請求権が否定される以上、横領罪は成立しないと主張して上告した。
あてはめ
原判決の確定した事実関係によれば、被告人は業務として財物を占有しており、その占有は委託に基づくものである。民事上、不法原因給付として返還請求が困難な事情があるとしても、刑法における横領罪の保護法益は、所有権のみならず委託信任関係そのものにも存する。したがって、被告人が委託の趣旨を完全に無視して領得行為に及んだことは、業務上横領罪の構成要件を充足するといえる。
結論
被告人の行為に業務上横領罪の成立を認めた原判決は相当であり、本件上告は棄却されるべきである。
実務上の射程
民法上の不法原因給付と刑法上の横領罪の成否を切り離して考える「相対的従属性」の立場を明確にした。答案では、民法708条の適用がある事案でも、委託関係が実態として存在する以上、横領罪が成立する根拠として本法理を用いる。
事件番号: 昭和25(あ)1946 / 裁判年月日: 昭和27年5月20日 / 結論: 棄却
民法上不法原因のため給付者が、その給付したものの返還を請求することが出来ない場合においても、その保管者がこれを不法に領得した以上、横領罪が成立することは、つとに当裁判所の判例の示すところである。(昭和二三年(れ)第八九号同二三年六月五日第二小法廷判決、判例集第二巻第七号六一四頁参照)