判旨
民法上の不法原因給付に該当し、給付者がその返還を請求できない場合であっても、受託者が当該給付物を不法に領得したときは横領罪が成立する。
問題の所在(論点)
不法原因給付(民法708条)として給付者に返還請求権が認められない物を、受託者が横領した場合、刑法上の「他人の物」を「保管」しているといえるか、すなわち横領罪(刑法252条1項)が成立するか。
規範
刑法上の保護に値する委託信託関係が存在するか否かは、民法上の返還請求権の有無と必ずしも一致しない。不法原因給付物の保管者が、委託の趣旨に反してこれを不法に領得した場合には、所有権の帰属にかかわらず、委託関係に基づく保管という事実状態を保護すべきであるから、横領罪が成立する。
重要事実
本件の具体的な事実関係(被告人がどのような物品をどのような不法な目的で預かったか等)については、判決文からは不明であるが、被告人が民法上の不法原因給付に該当する物を保管していたところ、これを不法に領得したという事案である。
あてはめ
民法上、不法原因給付(民法708条)の給付者は返還請求権を失うが、これは不法な契約の当事者を法の保護から排除する趣旨にすぎない。刑法においては、物の適正な流通・保管という事実上の委託関係に基づく秩序を保護する必要がある。本件において、保管者が不法に物を領得した行為は、給付者が返還請求できない状態に乗じて他人の物を自己の物として処分するものであり、不法領得の意思が認められる。したがって、民事上の返還請求権の存否にかかわらず、刑法上の保護対象となる保管関係が認められるべきである。
結論
不法原因給付物の保管者がこれを不法に領得した以上、横領罪が成立する。
実務上の射程
本判決は、民法と刑法の評価の相対性を認める立場を明確にしたものである。答案作成上は、不法原因給付と横領罪の成否が問われた際、民法708条の反射的効果としての所有権移転説を前提としつつも、刑法的保護の必要性から「保管」の要件を満たすと論じる際の根拠となる。
事件番号: 昭和23(れ)89 / 裁判年月日: 昭和23年6月5日 / 結論: 棄却
一 不法原因の爲め給付をした者はその給付したものの返還を請求することができないことは、民法第七〇八條の規定するところであるが刑法第二五二條第一項の横領罪の目的物は單に犯人の占有する他人の物であることを要件としているのであつて必ずしも物の給付者において民法上その返還を請求し得べきものであることを要件としていないのである。…