判旨
横領罪における不法領得の意思の有無は、被告人の主観的な目的(自己のため処分する目的)を認定すべきであって、民事上の留置権の成否を論ずる必要はない。保管料債権の行使を主張して委託物を処分した場合でも、不法領得の意思が認められれば横領罪が成立する。
問題の所在(論点)
委託物を処分した際に「自己のため処分する目的」が認められる場合において、民事上の留置権の成否を検討せずに不法領得の意思を肯定できるか(刑法252条1項の横領罪における不法領得の意思の認定手法)。
規範
横領罪の成立要件である「不法領得の意思」とは、委託の任務に背いて、所有者でなければできないような処分を自己の所有物としてする意思をいう。被告人が客体を処分する際、自己のためにする目的があったか否かが重要であり、民事上の留置権等の抗弁が成立し得る状況であっても、当該目的が認められる限り不法領得の意思は否定されない。
重要事実
被告人は魚鱗の保管を委託されていたが、その一部を自己のため他に処分する目的で処分した。これに対し弁護人は、当該処分は滞納されていた保管料債権に対する留置権の行使(民事上の正当な権利行使)であって、不法領得の意思はなく横領罪は成立しないと主張して控訴・上告した。
あてはめ
一審判決は、被告人が魚鱗を「自己のため他に処分する目的」で処分した事実を認定している。原審(控訴審)は、保管料が弁済期に達していないことから留置権が成立しないとして弁護人の主張を退けたが、そもそも刑法上の不法領得の意思の有無を判断するにあたって、民事上の留置権の成否を直接の論拠とするのは失当である。もっとも、証拠関係から被告人に「自己のため処分する目的」があった事実は十分に認められるため、結論として不法領得の意思の認定に誤りはない。
結論
横領罪が成立する。被告人に「自己のため他に処分する目的」が認められる以上、民事上の留置権の成否に関わらず不法領得の意思は肯定される。
実務上の射程
権利行使を名目とする横領事例において、不法領得の意思の有無は、主観的な目的(利得罪としての側面)と、委託の任務に背く客観的態様から判断される。民事上の権利(留置権・相殺権等)の存在は、直ちに不法領得の意思を阻却するものではなく、あくまで「自己の所有物として振る舞う意思」の有無を判断する際の考慮要素に留まることを示す。
事件番号: 昭和27(あ)3432 / 裁判年月日: 昭和28年9月30日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】横領罪における不法領得の意思の成否は、各事件の具体的な事実関係に基づき、他人の物の占有者が委託の趣旨に反して権限なく所有者でなければできない処分をする意思を有していたか否かによって決せられる。 第1 事案の概要:被告人が、自己の占有する他人の物について横領罪の成立を問われた事案。弁護人は、過去の判…