判旨
平和条約による領土変更に伴う国籍の変動については国内法たる国籍法の適用はなく、日本の国内法上台湾人としての法的地位を有していた者は、日華平和条約の発効により日本国籍を喪失する。
問題の所在(論点)
領土変更に伴う国籍の変動において、国内法である国籍法が適用されるか。また、平和条約により台湾人としての法的地位を有する者が日本国籍を喪失することは、憲法11条、13条、22条等に違反するか。
規範
憲法は、領土の変更に伴う国籍の変更について条約で定めることを認めている。したがって、領土変更という国際法上の原因に伴う国籍の変動については、国内法たる国籍法の適用はなく、当該条約の定めに従う。日本の国内法上台湾人としての法的地位を有していた者は、領土譲渡を定めた条約の発効と同時に日本国籍を喪失する。
重要事実
被告人は、台湾に本籍を有する生来の台湾人であり、日本の国内法上「台湾人」としての法的地位を有していた。昭和27年8月5日、日本国と中華民国との間の平和条約(日華平和条約)が発効し、台湾が日本国から中華民国へ譲渡されることが確定した。この条約発効に伴う被告人の日本国籍喪失の有無が争点となった。
あてはめ
本件被告人は、台湾に本籍を持つ生来の台湾人であり、当時の国内法上の分類において台湾人としての法的地位にあった。領土の帰属が変更される場合、その地域に属する住民の国籍は条約によって決定されるのが国際法上の原則であり、憲法もこれを許容している。日華平和条約は台湾の譲渡を定めたものであり、同条約の発効により、台湾人としての地位にある者は日本国籍を喪失したと解される。これに国籍法の規定を適用する必要はなく、国籍喪失を認めることは憲法にも違反しない。
結論
被告人は、日華平和条約の発効(昭和27年8月5日)とともに日本国籍を喪失した。したがって、原判決の判断は正当であり、上告を棄却する。
実務上の射程
平和条約による国籍変動に国籍法の適用がないことを示した重要判例である。答案上では、国籍の得喪が争われる事案において、通常の国籍法による処理ではなく「条約による包括的な変更」が優先される場面で引用する。憲法10条の「国民たる要件」が法律だけでなく条約(国際慣習法を含む)によっても定まり得ることを説明する際の根拠となる。
事件番号: 昭和55(行ツ)113 / 裁判年月日: 昭和58年11月25日 / 結論: 棄却
日本の国内法上台湾人としての法的地位をもつていた人は、日本国と中華民国との間の平和条約の発効とともに日本の国籍を失つたものと解すべきであり、日本国政府と中華人民共和国政府の共同声明によつても右の解釈に変更を生ずべきものではない。