日本の国内法上台湾人としての法的地位をもつていた人は、日本国と中華民国との間の平和条約の発効とともに日本の国籍を失つたものと解すべきであり、日本国政府と中華人民共和国政府の共同声明によつても右の解釈に変更を生ずべきものではない。
日本の国内法上台湾人としての法的地位をもつていた人の日華平和条約発効後の国籍
憲法10条,日本国と中華民国との間の平和条約2条,日本国と中華民国との間の平和条約10条
判旨
台湾人としての法的地位を持つ者は、日華平和条約の発効により日本国籍を喪失し、これは日中共同声明によっても変更されない。領土変更に伴う国籍喪失は、憲法10条、13条、14条、および95条に違反するものではない。
問題の所在(論点)
平和条約の発効による台湾人の日本国籍喪失が、憲法10条、13条、14条等の基本的人権の規定や、憲法95条の住民投票規定に違反しないか。
規範
戦争の終結および平和条約の締結に伴う領土の変更等によって、その領土に属する者の国籍に変更を生ずることは、憲法10条に委ねられた国籍喪失の判断として正当であり、憲法95条(地方自治特別法の住民投票)の問題とはならない。また、国籍喪失の法的判断は、それにより将来生じ得る事実上の不利益(退去強制等)とは法律上別個の問題として判断される。
重要事実
日本の国内法上、台湾人としての法的地位を有していた上告人が、昭和27年8月5日の「日本国と中華民国との間の平和条約(日華平和条約)」の発効により日本国籍を喪失したかどうかが争われた。上告人は、国籍喪失は憲法10条、13条、14条、31条、95条、さらには国際規約の自決権等に反すると主張した。
あてはめ
判例(昭和37年大法廷判決)によれば、日華平和条約の発効により台湾人は日本国籍を喪失したと解され、日中共同声明はこの解釈を変更するものではない。憲法31条(適正手続)違反の主張については、国籍喪失という法的判断と、退去強制により送還先で極刑に処されるかという事実は別個の問題である。また、憲法95条は一の地方公共団体のみに適用される法律に関する規定であり、領土変更に伴う国籍変更とは無関係である。さらに、国際人権規約等の自決原則は抽象的な指導原則にとどまり、具体的権利を付与するものではない。
結論
上告人は日華平和条約の発効により日本国籍を失ったものと解すべきであり、原審の判断に憲法違反の違法はない。上告を棄却する。
実務上の射程
平和条約という国家間合意に基づく領土変更に伴う国籍の得喪については、憲法の定める人権規定や特別法制定手続の制約を直接受けないという広範な裁量を認める射程を有する。国籍喪失の法的判断と、それに付随する事実上の不利益を切り離して検討する手法は、国籍・出入国管理に関する事案での答案作成において極めて重要である。
事件番号: 昭和36(オ)1390 / 裁判年月日: 昭和38年4月5日 / 結論: 棄却
右平和条約により日本の国籍を失う者は、それまで日本の国内法上台湾人としての法的地位を持つていた人と解することは、右条約の趣旨に反しない。