判旨
刑事訴訟法255条1項前段の公訴時効の停止は、犯人が国外にいる事実のみで発生し、捜査機関による犯罪の覚知や犯人の特定を要しない。また、同項後段の逃げ隠れている場合とは異なり、起訴状謄本の送達や略式命令の告知が不能であったことを前提要件としない。
問題の所在(論点)
刑事訴訟法255条1項前段の「犯人が国外にいる場合」による公訴時効の停止に関し、①送達不能等の手続的支障が前提要件となるか、②捜査機関による犯罪・犯人の認知が必要となるか。
規範
刑事訴訟法255条1項前段の「犯人が国外にいる場合」による時効の停止は、客観的に犯人が国外に滞在している期間について当然に生じる。これは、後段の「逃げ隠れているため」の停止とは異なり、送達不能等の具体的支障を要件とせず、また、捜査機関が犯罪の発生や犯人を覚知しているか否かも問わない。
重要事実
被告人は、出入国管理令(当時)違反の罪に問われた。第一審は、公訴時効の完成を理由に免訴判決を言い渡したが、原審(二審)は、被告人が国外に滞在していた期間は時効が停止していたと判断して免訴判決を破棄し、有罪を言い渡した。弁護人は、犯人が国外にいても、送達不能等の支障がない場合や、捜査機関が犯人を特定していない場合には時効は停止しないと主張して上告した。
あてはめ
刑訴法255条1項の文言上、前段(国外滞在)は後段(逃げ隠れ)と異なり、送達不能を前提とする旨の規定はない。国外にいる場合は、事実上司法権の行使が困難であるという客観的事態に基づく停止である。したがって、捜査機関が犯罪や犯人を知っているかどうかにかかわらず、国外にいる期間中は一律に時効の進行が停止すると解するのが相当である。本件においても、被告人の国外滞在期間は、法的に時効が停止していたといえる。
結論
被告人が国外にいた期間は、捜査の進展状況や書類送達の可否を問わず公訴時効は進行しない。したがって、時効未完成として有罪を言い渡した原判決は正当である。
実務上の射程
時効停止の客観的・一律的性質を強調する際、特に国外逃亡事案での公訴提起の可否を論ずる場面で活用できる。犯人側が「捜査が遅延していたのだから時効は進むべきだ」と主張しても、国外滞在の事実があれば一律に停止するという判例の立場は強固である。
事件番号: 昭和35(あ)2203 / 裁判年月日: 昭和38年1月25日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】犯罪の性質上、日時、場所、方法を詳らかにできない特殊事情がある場合には、公訴事実の特定を目的とする刑事訴訟法256条3項の趣旨を害しない限りの幅のある表示も許容される。本件密出国の事案では、詳細な特定が困難であり、起訴状や公判での陳述から審判対象が明確であれば、被告人の防御に実質的障害を与えず、公…