記録によれば、被告人の二男A―当時中学一年―及び長女B―当時小学五年―は、被告人の放火の意図を知らず、親戚訪問の名目で自宅を連れ出されたものであつて、当時我家につき住居の意思を抛棄していたものとは到底認められらいから、本件建造物が刑法一〇八条の放火罪の客体を構成することは明らかである。
刑法第一〇八条にいう「人ノ住居ニ使用シ」ている建造物にあたるとされた事例。
憲法108条
判旨
犯人が自宅に放火した際、同居の家族に退去の意思がなく、かつ犯人の放火の意図を知らされずに一時的に連れ出されたに過ぎない場合、当該建造物は刑法108条の「現に人が居住し」ているものに該当する。
問題の所在(論点)
犯人が同居家族を欺いて一時的に外出させた上で自宅に放火した場合、当該建造物が刑法108条の「現に人が居住し」ている建造物に当たるか。
規範
刑法108条にいう「現に人が居住し」ている建造物とは、犯人以外の者がその場所を起居の場所として日常的に使用しているものを指す。居住者が一時的に不在であっても、居住の意思を放棄したと認められない限り、当該要件の充足性は維持される。
重要事実
被告人は自宅に放火する際、同居していた中学1年生の二男および小学5年生の長女を親戚訪問の名目で連れ出した。子供たちは被告人の放火の意図を知らず、自宅を離れる際も居住の意思を放棄していなかった。
あてはめ
本件において、二男および長女は被告人の放火の意図を全く知らされていなかった。また、親戚訪問という名目で連れ出されたに過ぎない。これらの事実からすれば、子供たちは放火当時、自宅についての居住の意思を放棄していたとは到底認められない。したがって、客観的には居住者が一時的に不在であっても、規範的に見れば犯人以外の者が居住する建造物としての性質を失っていないといえる。
結論
本件建造物は刑法108条の放火罪の客体を構成する(現住建造物等放火罪が成立する)。
実務上の射程
本判決は、現住性の判断において「居住の意思」を重視しており、居住者が一時不在であっても、その不在が一時的なものに過ぎず、かつ居住の意思が継続している場合には現住性が肯定されることを示した。答案上では、家族を外へ連れ出した場合や、外出中の自宅への放火の事例で、居住の意思の有無を検討する際の根拠として活用できる。
事件番号: 平成8(あ)1154 / 裁判年月日: 平成9年10月21日 / 結論: 棄却
競売手続の妨害目的で自己の経営する会社の従業員を交替で泊まり込ませていた家屋につき放火を実行する前に右従業員らを旅行に連れ出していても、同家屋に日常生活上必要な設備、備品があり、従業員らが犯行前の約一箇月半の間に十数回交替で宿泊し、旅行から帰れば再び交替で宿泊するものと認識していたなど判示の事実関係の下においては、右家…