競売手続の妨害目的で自己の経営する会社の従業員を交替で泊まり込ませていた家屋につき放火を実行する前に右従業員らを旅行に連れ出していても、同家屋に日常生活上必要な設備、備品があり、従業員らが犯行前の約一箇月半の間に十数回交替で宿泊し、旅行から帰れば再び交替で宿泊するものと認識していたなど判示の事実関係の下においては、右家屋は、刑法(平成七年法律第九一号による改正前のもの)一〇八条にいう「現ニ人ノ居住ニ使用」する建造物に当たる。
競売手続の妨害目的で従業員を交替で泊まり込ませていた家屋につき放火前に右従業員を旅行に連れ出していても刑法(平成七年法律第九一号による改正前のもの)一〇八条にいう「現ニ人ノ居住ニ使用」する建造物に当たるとされた事例
刑法(平成7年法律91号による改正前のもの)108条
判旨
建造物の使用者が放火の準備のために一時的に住居者を不在にさせたとしても、従来の起居の状況や管理状態に照らし、その使用形態に変更がないと認められる場合には、依然として「現に人の住居に使用」する建造物に当たる。
問題の所在(論点)
放火の実行を容易にするため、住居者を一時的に不在にさせた場合であっても、当該建造物は刑法108条の「現に人の住居に使用」するものといえるか。
規範
刑法108条の「現に人の住居に使用」する建造物とは、人が起居の場所として日常的に使用しているものをいい、犯行時にたまたま人が不在であっても、継続的な使用実態や管理状況から、その使用形態に変更がないと認められる場合にはこれに該当する。
重要事実
被告人は、競売妨害等の目的で、自己の経営する会社の従業員5名に対し、家具やライフラインが整った本件家屋に交代で宿泊させていた。その後、保険金詐取目的で本件家屋への放火を企て、実行時に人がいないよう、従業員全員を2泊3日の旅行に連れ出した。放火はその旅行中の不在時に行われたが、被告人は旅行後に宿泊を中止する指示はしておらず、合鍵の回収も行っていなかった。
あてはめ
本件家屋は、設備が整い十数回にわたる継続的な宿泊実績があることから、人の起居の場所として日常使用されていた。被告人が従業員を旅行に連れ出したのは、放火の準備を隠すための「一時的な不在」を作り出したに過ぎない。被告人は旅行後の宿泊継続を予定しており、鍵も回収していないことから、居住の継続性は維持されている。したがって、犯行時においても本件家屋の使用形態に変更があったとは認められず、起居の場所としての実態は維持されていたと評価できる。
結論
本件家屋は「現に人の住居に使用」する建造物に当たり、現住建造物等放火罪が成立する。
実務上の射程
住居者の「不在」が、単なる一時的な外出等ではなく、犯人の積極的な働きかけによるものであったとしても、居住の継続性や管理実態が失われていない限り、現住性が維持されることを示した。答案上は、日常的な使用実態と、不在の理由・期間・再開の見込み(継続性)を具体的事実から検討する際の指針となる。
事件番号: 昭和35(あ)1324 / 裁判年月日: 昭和37年12月4日 / 結論: 棄却
記録によれば、被告人の二男A―当時中学一年―及び長女B―当時小学五年―は、被告人の放火の意図を知らず、親戚訪問の名目で自宅を連れ出されたものであつて、当時我家につき住居の意思を抛棄していたものとは到底認められらいから、本件建造物が刑法一〇八条の放火罪の客体を構成することは明らかである。
事件番号: 昭和26(あ)5032 / 裁判年月日: 昭和28年6月12日 / 結論: 棄却
刑法一一五条の規定する現に人の住居に使用せず又は人の現存しない建造物に対する放火罪が、その未遂をも罰する法意であることは、放火の目的物に、同条所定の事実が存するときは、たとえそれが自己の所有に係る場合と雖も他人の物を焼燬した場合と同様に取扱われ刑法一〇九条一項の犯罪を構成する旨を定めていること、そしてこの場合は同法一一…
事件番号: 昭和28(あ)5153 / 裁判年月日: 昭和30年11月8日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】共犯者のみが居住する建造物であっても、その実態からみて他の居住者が存在する場合には現住建造物放火罪が成立し、控訴審に判断遺脱の違法があっても、当該主張自体に理由がない場合は判決に影響を及ぼさず、破棄事由には当たらない。 第1 事案の概要:被告人Bは、妻Cらと居住する住宅、および弟が起居する工場・作…
事件番号: 昭和43(あ)2552 / 裁判年月日: 昭和44年4月3日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】共謀共同正犯の成立に必要な共謀に参加した事実が認められる以上、直接実行行為に関与しない共謀者に共同正犯としての刑責を負わせることは、憲法31条に違反しない。 第1 事案の概要:被告人は、いわゆる共謀共同正犯における共謀に参加した事実が認められるものの、当該犯罪の実行行為自体には直接関与していなかっ…