刑法一一五条の規定する現に人の住居に使用せず又は人の現存しない建造物に対する放火罪が、その未遂をも罰する法意であることは、放火の目的物に、同条所定の事実が存するときは、たとえそれが自己の所有に係る場合と雖も他人の物を焼燬した場合と同様に取扱われ刑法一〇九条一項の犯罪を構成する旨を定めていること、そしてこの場合は同法一一二条によりその未遂罪をも罰していることに照して明らかである。
現に人の住居に使用せず又は人の現存しない建造物に対する放火未遂罪の成否
刑法115条,刑法109条1項,刑法112条
判旨
刑法115条により他人の所有物とみなされる建造物に対する放火行為については、同法109条1項の非現住建造物等放火罪が成立し、同法112条に基づきその未遂罪も処罰される。
問題の所在(論点)
刑法115条の規定により「他人の物」とみなされる建造物(非現住)への放火未遂行為が、刑法112条の未遂処罰規定の対象となるか。すなわち、115条の適用がある場合に109条1項の罪が成立し、その未遂が処罰されるか。
規範
刑法115条は、自己の所有に係る建造物等であっても、現に人の住居に使用せず、かつ、人の現存しないものであっても、差押えを受け、物権を負担し、賃貸し、又は保険に付したものであるときは、他人の物とみなす旨を規定している。この規定により「他人の物」とみなされる場合には、刑法109条1項の罪(非現住建造物等放火罪)を構成し、同法112条によりその未遂も罰せられるものと解する。
重要事実
被告人らは共謀の上、放火の目的物である建造物に火を放とうとしたが未遂に終わった。当該建造物は、犯行当時、被告人以外の者に賃貸されており、かつ保険に付されていた。被告人側は、刑法115条が適用される場合に未遂を処罰する規定がない旨を主張して上告した。
あてはめ
本件建造物は、犯行当時、現に賃貸中であり、かつ保険に付されていた。これらは刑法115条に規定される「賃貸し、又は保険に付したもの」に該当するため、たとえ被告人の所有物であったとしても、放火罪の適用においては他人の物とみなされる。その結果、本件行為は刑法109条1項の「他人の所有に属する」非現住建造物への放火罪を構成する。同法112条は109条1項の未遂を罰すると明記しているため、115条の適用を受ける本件においても未遂罪が成立するといえる。
結論
刑法115条の適用がある建造物への放火については、刑法109条1項の例により処罰され、同法112条に基づきその未遂罪も処罰される。
実務上の射程
自己所有の非現住建造物であっても、115条の事由(賃貸、保険等)がある場合は「他人所有」扱いとなり、結果として公共の危険の発生が不要な抽象的危険犯(109条1項)として扱われることを確認した判例である。答案上は、115条の該当性を指摘した上で、109条1項・112条をセットで適用する根拠として用いる。
事件番号: 昭和29(あ)805 / 裁判年月日: 昭和32年6月21日 / 結論: 棄却
刑法第一〇八条にいう「人」とは、犯人以外の者を指称する。
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