刑法第一一五条は、同条の物件が犯人の所有に属する場合であつても、若し差押を受け、物権を負担しまたは賃貸し若しくは保険に付したものを焼燬するときは、損害を他人に及ぼしまたは及ぼすおそれがあるので、そのような他人の利益の侵害となる行為を犯罪として処罰する趣旨であつて、犯人の財産権の公私を制限することを内容とした規定ではない。
刑法第一一五条の法意
刑法115条,憲法29条
判旨
刑法115条は、自己の所有物であっても、差押を受け、物権を負担し、賃貸し、または保険に付した物件を焼燬する行為を処罰する。これは他人の利益侵害を防止する趣旨であり、憲法が保障する財産権の不当な制限には当たらない。
問題の所在(論点)
刑法115条が、自己の所有物であっても特定の負担等がある物件を焼燬する行為を処罰することは、憲法で保障された財産権を不当に制限し、違憲ではないか。
規範
刑法115条は、同条所定の物件(自己の所有物)が、差押を受け、物権を負担し、賃貸し、または保険に付されたものである場合に、これを焼燬する行為を犯罪として処罰する。その趣旨は、当該行為が他人の利益(損害を他人に及ぼし、または及ぼすおそれ)を侵害することを防止する点にある。したがって、同条は正当な理由なく財産権の行使を制限するものではなく、公共の福祉による合理的制限として憲法に違反しない。
重要事実
被告人は、自己の所有に属する物件(建物等)を焼燬した。しかし、当該物件には、差押、物権の負担、賃貸借、または保険の付帯といった、他人の権利や利益が関与する刑法115条所定の状態が存在していた。弁護人は、自己の所有物を処分する行為を処罰することは、憲法が保障する財産権の侵害であると主張して上告した。
あてはめ
刑法115条が適用される物件は、形式的には犯人の所有であっても、差押や保険などの法的関係を通じて他人の経済的利益が結びついている。このような物件を焼燬することは、単なる自己所有物の処分にとどまらず、他人の利益を侵害し、あるいは侵害する具体的危険を生じさせる行為であるといえる。したがって、これを処罰の対象とすることは、他人の権利を保護するために必要かつ合理的な制約であり、財産権の保障の範囲内にあると解される。
結論
刑法115条は、他人の利益を侵害する行為を処罰する趣旨の規定であり、財産権の行使を不当に制限するものではないため、憲法に違反しない。
実務上の射程
自己所有物であっても他人の利益(担保権や保険金請求権等)が介在する場合には「他人の物」と同等の法的保護が与えられることを明確にした。放火罪における「自己の所有物」の解釈(115条による擬制)を論じる際の合憲的根拠として機能する。
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