1 刑法110条1項にいう「公共の危険」は,同法108条及び109条1項に規定する建造物等に対する延焼の危険に限られるものではなく,不特定又は多数の人の生命,身体又は前記建造物等以外の財産に対する危険も含まれる。 2 市街地の駐車場において,放火された自動車から付近の2台の自動車に延焼の危険が及んだことなど判示の事実関係の下では,刑法110条1項にいう「公共の危険」の発生が認められる。
1 刑法110条1項にいう「公共の危険」の意義 2 市街地の駐車場において放火された自動車から付近の2台の自動車に延焼の危険が及んだことなどをもって刑法110条1項にいう「公共の危険」の発生が認められた事例
刑法110条1項
判旨
刑法110条1項の「公共の危険」は、同法108条及び109条1項の建造物等への延焼の危険に限られず、不特定又は多数の人の生命、身体又はそれら以外の財産に対する危険も含まれる。市街地の駐車場における車両放火により、付近の他人の車両やゴミ集積場への延焼の危険が生じた場合は、公共の危険の発生が認められる。
問題の所在(論点)
刑法110条1項(建造物等以外放火罪)の構成要件である「公共の危険」の内容に、108条・109条1項の建造物等への延焼のおそれがない場合(他の「物」への延焼の危険に留まる場合)が含まれるか。
規範
刑法110条1項の「公共の危険」とは、必ずしも同法108条及び109条1項に規定する建造物等に対する延焼の危険のみに限られるものではなく、不特定又は多数の人の生命、身体又は前記建造物等以外の財産(110条に規定する物等)に対する危険も含まれると解する。
重要事実
被告人は妻と共謀し、小学校駐車場の無人の被害車両にガソリンを撒いて点火した。現場は市街地で、公園、道路、農協建物等に隣接していた。被害車両の周囲数メートルの位置には他人の車両2台が駐車されており、さらに約3.4m離れた場所には可燃性ゴミ約300kgが置かれたゴミ集積場があった。消火活動により鎮火したが、火炎は高さ約1mに達し、被害車両の各所が焼損したほか、隣接車両2台及びゴミ集積場に延焼の危険が及んだ。
あてはめ
本件放火現場は市街地であり、不特定多数の往来が想定される場所に位置する。被害車両に点火された火は高さ1mに達し、わずか数メートルの距離にある他人の車両2台や、大量の可燃物が置かれたゴミ集積場に延焼する具体的危険が生じていた。これらは108条・109条1項の建造物等ではないが、不特定又は多数の人の財産に対する危険に該当する。したがって、客観的に「公共の危険」が発生したと評価できる。
結論
被告人に刑法110条1項の建造物等以外放火罪が成立する。
実務上の射程
公共の危険の定義について、建造物等への延焼可能性がない事案でも、不特定多数の生命・身体・「その他の財産」への危険があれば足りることを明示した。実務上、車両や資材置き場などへの放火で、周囲の建物に延焼する蓋然性が低い場合に、公共の危険の有無を判断する重要な基準となる。
事件番号: 昭和32(あ)2511 / 裁判年月日: 昭和33年3月27日 / 結論: 棄却
刑法第一一五条は、同条の物件が犯人の所有に属する場合であつても、若し差押を受け、物権を負担しまたは賃貸し若しくは保険に付したものを焼燬するときは、損害を他人に及ぼしまたは及ぼすおそれがあるので、そのような他人の利益の侵害となる行為を犯罪として処罰する趣旨であつて、犯人の財産権の公私を制限することを内容とした規定ではない…
事件番号: 昭和28(あ)3616 / 裁判年月日: 昭和33年9月16日 / 結論: 棄却
いわゆる火焔瓶を乗用自動車に投げつけ、これに命中破壊させたが、右自動車の運転台座席覆布の一部を焼燬したにとどまり、火炎瓶の火が自動車に燃え移り独立燃焼の程度に達しないときは、刑法第一一〇条の放火罪は成立しない。
事件番号: 平成18(あ)2151 / 裁判年月日: 平成22年9月16日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】無差別に深夜の住宅街で連続放火を行い、未必的な殺意に基づき4名を死亡させた事案において、動機に酌むべき点がないこと、放火の危険性と結果の重大性、地域社会に与えた不安等を考慮すれば、死刑の科刑は免れない。 第1 事案の概要:被告人は、経済的苦境等のうっぷんを晴らすため、放火のスリルと快感を求めて深夜…
事件番号: 昭和55(あ)578 / 裁判年月日: 昭和55年7月14日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】被告人の取調べ過程において、供述の任意性に影響を及ぼすような違法または不当な事由が認められない場合には、当該自白調書の証拠能力は否定されない。 第1 事案の概要:被告人の供述調書(自白調書)の証拠能力が争点となった事案である。弁護人は、憲法33条、36条、38条1項・2項に違反するような違法・不当…