いわゆる火焔瓶を乗用自動車に投げつけ、これに命中破壊させたが、右自動車の運転台座席覆布の一部を焼燬したにとどまり、火炎瓶の火が自動車に燃え移り独立燃焼の程度に達しないときは、刑法第一一〇条の放火罪は成立しない。
いわゆる火焔瓶を乗用自動車に投げつけ命中破壊させることと刑法第一一〇条の放火罪の成否。
刑法110条
判旨
建造物等以外放火罪(刑法110条)の既遂時期は、火が媒介物から離れて目的物に燃え移り、独立して燃焼するに至った時点(独立燃焼説)であり、本件ではその事実が認められないため同罪は成立しない。
問題の所在(論点)
刑法110条の建造物等以外放火罪における「焼燬」の意義、および既遂時期が問題となる。特に、火炎瓶による燃焼が一時的なガソリンの燃焼にとどまり、目的物自体が独立して燃え始めていない場合に同罪が成立するか。
規範
刑法110条の建造物等以外放火罪が成立するためには、放火の手段に用いた媒介物の火が、同条所定の目的物に燃え移り、独立して燃焼する程度に達したことを要する(いわゆる独立燃焼説)。同罪は未遂を罰しないため、この段階に至る前の段階では同罪は成立しない。
重要事実
被告人が自動車に対し、ガソリンを入れた火炎瓶を使用して放火した事案。本件火炎瓶の使用によりガソリンが燃焼し、その結果として被害車両の運転台座席の覆布(シートカバー)の一部が焼損した事実は認められた。しかし、火炎瓶の火が自動車自体に燃え移り、媒介物から離れて独立して燃焼を継続するまでには至っていなかった。
事件番号: 昭和53(あ)472 / 裁判年月日: 昭和53年10月20日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】爆発物取締罰則は憲法施行後も法律としての効力を有し、その第1条にいう「治安ヲ妨ケ」るという概念は憲法31条が要求する刑罰法規の明確性の原則に違反しない。 第1 事案の概要:被告人は、爆発物取締罰則違反等の罪で起訴された。これに対し被告人側は、同罰則が明治時代の太政官布告であり、適正な立法手続を経て…
あてはめ
本件では、座席覆布の一部が焼燬しているものの、それは火炎瓶に由来するガソリンの燃焼による結果にすぎない。火が自動車という目的物そのものに燃え移り、火炎瓶(媒介物)のエネルギーに依存せず独立して燃焼を継続する程度には達していない。したがって、構成要件上の「焼燬」があったとは認められず、公共の危険の成否を判断するまでもなく既遂には至っていない。
結論
刑法110条の放火罪は成立しない。同罪は未遂を罰しないため、独立燃焼に至っていない本件については無罪(または放火罪としては不成立)とされる。
実務上の射程
放火罪全般における既遂時期(焼燬の意義)について独立燃焼説を堅持する立場を示すものである。110条が未遂非罰であることを前提に、既遂認定には厳格な独立燃焼の証明が必要であることを明示しており、実務上も火炎瓶等を用いた放火事案における既遂・未遂の区別において極めて重要な基準となる。
事件番号: 昭和27(あ)4808 / 裁判年月日: 昭和28年11月10日 / 結論: 棄却
裁判所が刑法一〇八条の放火の未遂の起訴に対し、同法一一〇条一項の放火の既遂を認定するについては、訴因罰条の変更手続を経る必要がないものと解するのが相当である。