裁判所が刑法一〇八条の放火の未遂の起訴に対し、同法一一〇条一項の放火の既遂を認定するについては、訴因罰条の変更手続を経る必要がないものと解するのが相当である。
訴因罰条の変更を要しない一事例 ―刑法一〇八条の放火未遂を一一〇条一項の放火の既遂と認定する場合―
刑法108条,刑法112条,刑法110条,刑訴法312条,刑訴規則209条
判旨
裁判所が刑法108条(現住建造物等放火)の未遂の起訴に対し、同法110条1項(公共危険放火)の既遂を認定する場合、訴因・罰条の変更手続を経る必要はない。
問題の所在(論点)
刑法108条の未遂罪として起訴された事実に対し、裁判所が訴因変更手続を経ることなく同法110条1項の既遂罪を認定することが許されるか(訴因変更手続の要否)。
規範
審判対象は起訴状に記載された公訴事実であるところ、起訴事実の範囲内において適用罰条を異にし、あるいは未遂を既遂と認定する場合であっても、被告人の防衛権行使に実質的な不利益が生じない限り、訴因変更手続(刑事訴訟法312条1項)を要しない。
重要事実
被告人は刑法108条(現住建造物等放火罪)の未遂罪で起訴されたが、下級審において、裁判所は刑法110条1項(建造物等以外放火罪、いわゆる公共危険放火罪)の既遂罪を認定した。これに対し、弁護人が訴因変更手続を経ずに異なる罪名・既遂を認定したことは訴訟法違反であるとして上告した事案である。
あてはめ
判決文によれば、裁判所は現住建造物等放火未遂の起訴に対し、より法定刑の軽い公共危険放火の既遂を認定している。これは起訴された公訴事実の枠内における法的評価の変更に留まるものであり、かつ、未遂から既遂への変更が含まれるとしても、当初の起訴事実との間に密接な関連がある。したがって、訴因・罰条の変更手続を経ることなく認定を行うことは相当であると判断される。
結論
刑法108条の未遂から110条1項の既遂への認定変更については、訴因変更手続を経る必要はない。
実務上の射程
重い罪(108条)から軽い罪(110条1項)への縮小認定の場面において、未遂・既遂の差異があったとしても、訴因変更を不要とした事例である。もっとも、現代の判例実務(最決昭31.2.20等)に鑑みれば、争点化の有無や被告人の防御権への具体的影響を考慮すべきであり、本判決は縮小認定の許容範囲を示す一つの基準として理解すべきである。
事件番号: 昭和58(あ)937 / 裁判年月日: 昭和60年3月28日 / 結論: 棄却
刑法一一〇条一項の罪の成立には、公共の危険発生の認識は必要でない。
事件番号: 昭和28(あ)3616 / 裁判年月日: 昭和33年9月16日 / 結論: 棄却
いわゆる火焔瓶を乗用自動車に投げつけ、これに命中破壊させたが、右自動車の運転台座席覆布の一部を焼燬したにとどまり、火炎瓶の火が自動車に燃え移り独立燃焼の程度に達しないときは、刑法第一一〇条の放火罪は成立しない。