原判決の是認した第一審判決は、起訴状に記載されている公訴事実中の動機の一部を敷衍して判示したものであることが判文上明らかであり、かかる場合には訴因変更の手続を経る必要はないものと解すべきである。
訴因変更の手続を要しない一事例
刑訴法312条,刑訴規則209条
判旨
被告人の司法警察員に対する自白が強制等によらない任意のものであるかは、記録上の証跡や健康状態を総合的に考慮して判断され、起訴状記載の動機を一部敷衍して判示する場合には訴因変更手続を要しない。
問題の所在(論点)
1. 被告人が公判で強制を主張する場合、どのような事情があれば自白の任意性が認められるか(憲法38条2項、刑訴法319条1項)。2. 起訴状記載の動機を判決で詳細に認定する場合、訴因変更手続(刑訴法312条1項)が必要となるか。
規範
1. 自白の任意性については、取調官の供述、被告人の健康状態、供述拒否権の告知の有無等の客観的証跡に基づき、強制等の不当な圧迫が存したか否かにより判断する。2. 判決において起訴状に記載された公訴事実中の動機の一部を敷衍して認定するにすぎない場合には、訴因変更の手続を経ることを要しない。
重要事実
被告人は第一審公判において、司法警察員に対する自白が強制によるものであり任意ではない旨を主張した。これに対し第一審裁判所は、取調を担当した警部補及び巡査部長を証人として尋問し、強制等の無理な取調べはなかったとの供述を得た。また、判決では起訴状に記載された犯罪の動機について、一部内容を詳しく説明(敷衍)する形で判示したが、検察官による訴因変更の手続は行われなかった。
あてはめ
1. 本件では、取調担当者の証言により強制の事実が否定されている。記録上も強制等を認めるに足りる証跡はなく、被告人の健康状態も取調べに堪えられないほど衰弱していたとは認められない。さらに、供述調書作成に際してはあらかじめ供述拒否権も告知されていた。したがって、自白の任意性は否定されない。2. 判決が示した動機の詳細は、あくまで起訴状の公訴事実の範囲内にある動機の一部を「敷衍」したものにすぎない。これは訴因の同一性を害するような事実の変更ではないため、訴因変更手続を履践しなくとも違法ではない。
結論
被告人の自白に任意性欠如の疑いはなく、憲法38条2項には違反しない。また、動機の敷衍認定に訴因変更手続は不要であるため、上告を棄却する。
実務上の射程
自白の任意性否定の主張に対し、取調官の証言や被告人の体調等の客観的事情からこれを排斥した事例として実務上参考になる。また、訴因変更の要否に関し、「動機の敷衍」にとどまる場合は手続不要とする基準を示しており、審判対象の画定において重要な射程を有する。
事件番号: 昭和25(あ)1690 / 裁判年月日: 昭和28年12月24日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】自白の任意性は、不合理な供述内容や取調初期の否認という事実のみで直ちに否定されるものではなく、補強証拠についても犯罪事実の客観的部分等を補強するものであれば足りる。 第1 事案の概要:被告人は当初、警察での第7回までの取調べにおいて犯行を否認していたが、第8回および第9回の供述調書において犯行を自…