判旨
自白の任意性は、不合理な供述内容や取調初期の否認という事実のみで直ちに否定されるものではなく、補強証拠についても犯罪事実の客観的部分等を補強するものであれば足りる。
問題の所在(論点)
1. 取調べ当初の否認や供述内容の一部不合理性は、自白の任意性を否定する根拠となるか。 2. 憲法38条3項が求める補強証拠は、どの程度の範囲を補強する必要があるか。
規範
憲法38条2項及び刑訴法319条1項の自白の任意性については、供述に至る経緯や内容に不合理な点があること、あるいは当初否認していたことのみを以て直ちに否定されるものではない。また、憲法38条3項の補強証拠については、自白に係る犯罪事実の全部を直接証明するものである必要はなく、犯罪の原因・動機、手段等の各一部、特に判示犯罪の客観的事実を補強するに足りるものであれば、自白と相まって犯罪事実を認定できる。
重要事実
被告人は当初、警察での第7回までの取調べにおいて犯行を否認していたが、第8回および第9回の供述調書において犯行を自白した。被告人側は、この自白には不合理な部分が含まれていること、および長期間の否認後の自白であることを理由に、警察官の強要等による不任意な自白であると主張し、また、提示された補強証拠が不十分であり、自白のみによる処罰を禁じた憲法に違反すると主張して上告した。
あてはめ
1. 任意性について:自白の一部に不合理な部分が含まれることや、第7回まで否認し第8回から自白に転じたという経緯は、直ちに自白が強要されたことを意味しない。記録上の証拠に照らし、第8回・第9回の供述調書は任意になされたものと認められる。 2. 補強証拠について:第一審で挙示された多数の補強証拠は、本件犯罪の原因・動機、手段等の各一部、特に犯罪の客観的事実を補強するものである。これらを総合すれば、自白の真実性を担保し犯罪事実の全体を認定するに足りる。
結論
被告人の自白は任意性に疑いがなく、かつ、犯罪の客観的事実を裏付ける十分な補強証拠が存在するため、憲法38条2項および3項には違反しない。
実務上の射程
自白の任意性判断において「変遷」や「一部の不合理」が直ちに否定材料にならないことを示す。また、補強法則の範囲について「客観的事実の補強で足りる」とする実務上確立された法理を確認する際に引用される。
事件番号: 昭和27(あ)2449 / 裁判年月日: 昭和28年11月10日 / 結論: 棄却
原判決の是認した第一審判決は、起訴状に記載されている公訴事実中の動機の一部を敷衍して判示したものであることが判文上明らかであり、かかる場合には訴因変更の手続を経る必要はないものと解すべきである。