本論旨中被告人の司法警察員に対する供述が強制脅迫により為された任意のものでない旨の主張は、結局事実審の裁量に任かされている同供述調書の取捨判断を非難するに帰し法令違反の主張とは認め難い。なぜなら、司法警察員作成の実況見分書の記載が仮りに所論のごとく司法警察員の描いた実体のない空中楼閣であるとしても、被告人の供述がこれと一致符合しているからといつて、それだけの理由でその供述が司法警察員の強制脅迫によるものとはいえないし、その他右被告人の供述が強制脅迫によるものであると認むべき証拠がない。
被告人の供述が強制脅迫によりなされた任意のものでない旨の主張は法令違反の主張にあたらない
憲法38条2項,刑訴法319条,刑訴法405条
判旨
自白の任意性は事実審の合理的な裁量に委ねられ、勾留中であることや先行する供述調書の存在のみでは直ちに強制によるものとは断定できない。また、自白の一部を他の客観的証拠と総合して事実認定に用いることは、自白のみを唯一の証拠とする判決には当たらない。
問題の所在(論点)
勾留中や先行する取調べの状況下でなされた自白について、直ちに任意性を否定すべきか。また、自白の一部を他の証拠と総合して認定に用いる場合、自白を唯一の証拠としたこと(刑訴法319条2項違反)になるか。
規範
自白の任意性(刑訴法319条1項)の判断は、供述に至る経緯、供述調書の形式的要件の具備、公判廷での被告人の供述内容等を総合し、実験則に反しない限り事実裁判所の裁量に属する。また、補強証拠の要否(同条2項)については、自白の一部と他の証拠を総合して犯罪事実を認定する限り、自白を唯一の証拠としたものとはいえない。
重要事実
被告人が放火罪で起訴された事案において、弁護人は司法警察員および検察官に対する自白が強制・脅迫に基づく任意性のないものであると主張した。具体的には、警察作成の実況見分書の内容が虚構であり、それに符合する自白は強制の産物であること、また検察官への自白は勾留中かつ警察での供述に引き続き行われたことを理由に挙げた。第一審は、自白の一部と他の客観的事実を総合して有罪を認めていた。
あてはめ
警察官作成の調書には黙秘権告知や読み聞かせ等の法定形式が備わっており、被告人も第一審で署名捺印を認め証拠とすることに同意している。取調官による強制の事実を否定する証言もあり、実況見分書との符合のみで強制があったとはいえない。検察官に対する自白も、勾留中であることや前件供述に続くことのみでは強制とは断定できない。さらに、第一審判決は自白の一部だけでなく放火の客観的事実等の他の証拠を総合しており、自白のみを証拠としたものではない。
結論
被告人の自白に任意性を認め、かつ他の証拠と総合して事実を認定した第一審および原審の判断は正当であり、刑訴法405条の上告理由には当たらない。
実務上の射程
自白の任意性の判断において、手続的適正(告知・署名)や公判廷での被告人の態度が重視されることを示す。また、自白が証拠の一部として機能していれば補強証拠の原則に抵触しないという認定手法の許容範囲を明らかにしている。
事件番号: 昭和27(あ)2449 / 裁判年月日: 昭和28年11月10日 / 結論: 棄却
原判決の是認した第一審判決は、起訴状に記載されている公訴事実中の動機の一部を敷衍して判示したものであることが判文上明らかであり、かかる場合には訴因変更の手続を経る必要はないものと解すべきである。