判旨
強制された自白であると疑うに足りる資料がない限り、自白調書の証拠能力は否定されず、また、一審の無罪判決を覆した原判決に職権調査を経ても著しい事実誤認(刑訴法411条)は認められない。
問題の所在(論点)
1. 強制による自白であるとの主張が認められ、証拠能力が否定されるか。 2. 刑訴法405条の上告理由には当たらない事案において、被告人の足取りや犯行時間の関係等の微妙な点について、刑訴法411条1号に基づき職権で原判決を破棄すべき「著しい事実誤認」があるか。
規範
1. 自白の証拠能力について、強制によるものであると疑うに足りる資料が記録上発見できない場合には、その任意性を否定することはできない。 2. 刑訴法411条(上告裁判所の職権による判決破棄)の適用については、記録を精査し、必要に応じて職権で弁論を開いて慎重に調査を遂げたとしても、なお原判決を破棄しなければ著しく正義に反すると認められる事由がない限り、同条を適用して原判決を破棄することはできない。
重要事実
第一審裁判所が被告人に対し無罪の判決を言い渡したが、控訴審(原審)がこれを取り消して有罪とした事件。被告人側は、原審が証拠に採用した自白調書が強制によるものであると主張するとともに、被告人の犯行現場到着時間、出火までの時間的関係、犯行の動機や決意の時期といった事実認定について、原判決には重大な誤認があると主張して上告した。
あてはめ
1. 自白の任意性については、記録を精査しても強制によってなされたと疑うに足りる資料は発見されず、適法な証拠として認められる。 2. 事実誤認の有無については、最高裁が職権をもって弁論を開き、被告人の足取り、現場到着から出火までの時間的関係、動機、決意の時期等の詳細な点について慎重に調査・検討を行った。しかし、検討の結果、原判決の認定が不合理であるとまでは断じられず、刑訴法411条を適用して原判決を破棄すべき事由は認められない。
結論
本件上告を棄却する。自白の任意性に疑いはなく、また原判決を職権により破棄すべき著しい事実誤認も認められない。
実務上の射程
自白の任意性争い(319条1項)に対する裁判所の基本的な判断姿勢を示す。また、上告裁判所が刑訴法411条の適用の有無を判断するために職権で弁論を開き、事実関係を詳細に検討する実務上のプロセスを明らかにした事例であり、事実誤認を主張する際の実効的な救済の限界を示している。
事件番号: 昭和29(あ)3348 / 裁判年月日: 昭和32年10月4日 / 結論: 棄却
二個の放火事実中、第一事実について被告人の動機についての供述が、争なき第二事実の動機と相通ずるものがあり、実況見分書中建物焼失の事実並びに火災発見者の火災発見時刻、および燃上地点に関する供述記載が、被告人が公判廷において自白する建物焼毀の事実並びに点火の位置、時刻と照応する場合、右動機を共通にする事実および実況見分書の…