二個の放火事実中、第一事実について被告人の動機についての供述が、争なき第二事実の動機と相通ずるものがあり、実況見分書中建物焼失の事実並びに火災発見者の火災発見時刻、および燃上地点に関する供述記載が、被告人が公判廷において自白する建物焼毀の事実並びに点火の位置、時刻と照応する場合、右動機を共通にする事実および実況見分書の記載は自白の補強証拠として欠くるところがない。
刑訴法第三一九条第二項に違反しない事例
刑訴法319条2項,憲法38条3項
判旨
自白の補強証拠は、犯罪事実の客観的部分を証明するものであれば足り、被告人の自白と照応して犯罪の真実性を保障するものであれば、自白の全部を補強する必要はない。
問題の所在(論点)
放火罪の自白について、実況見分調書等に記載された客観的事実が被告人の自白内容と合致する場合、刑訴法319条2項にいう補強証拠として十分か。また、動機等の主観的事実について補強証拠が必要か。
規範
憲法38条3項及び刑訴法319条2項が定める自白の補強法則は、架空の犯罪による処罰を防止し、自白の真実性を保障することを趣旨とする。したがって、補強証拠は犯罪事実(客観的構成要件該当事実)の全部を証明する必要はなく、自白にかかる犯罪の客観的部分を立証し、自白の真実性を保障しうる程度にこれと照応するものであれば足りる。また、犯罪の動機に関する事実は、被告人の自白のみで認定しても違法ではない。
重要事実
被告人は、判示第一及び第二の放火事実について第一審で自白した。判示第一の事実については、放火の動機が判示第二のそれ(完全な補強証拠あり)と相通ずるものであった。また、実況見分調書により、被告人が自白した日時及び場所において建物が全焼した事実、並びに守衛が発見した火の手の位置(天井付近)が、被告人の自白した点火位置と合致することが判明していた。弁護人は、判示第一の事実につき、自白に対する補強証拠が不十分であり、刑訴法319条2項に違反すると主張した。
あてはめ
本件では、実況見分調書により、被告人が自白した通りの日時に建物が全焼したという客観的事実が認められる。さらに、同調書における守衛の説明によれば、出火場所が被告人の自白した点火位置と照応しており、自白の真実性が十分に担保されているといえる。このように、自白と客観的事実が合致している以上、これらは補強証拠として欠くるところがない。また、放火の動機という点については、被告人の自白のみで認定しても違法ではないと解される。
結論
本件実況見分調書等は判示第一の事実につき補強証拠として十分であり、刑訴法319条2項違反の点は認められない。したがって、上告を棄却する。
実務上の射程
自白の補強範囲について、いわゆる『罪体説(客観的構成要件該当事実の全部に補強が必要)』よりも緩やかな立場を示した判例として重要である。実務上は、自白内容と実況見分調書等に現れた客観的な被害事実や状況(火元、発見状況等)との整合性を指摘することで、自白の真実性を基礎付ける論法として用いる。
事件番号: 昭和27(あ)4942 / 裁判年月日: 昭和29年3月9日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】憲法38条3項が要求する自白の補強証拠は、自白が架空のものでないことを担保し得る程度のものであれば足りる。 第1 事案の概要:被告人が自白の任意性を争うとともに、自白を裏付ける補強証拠が欠如しているとして、憲法38条2項および3項違反を主張して上告した事案である。判決文上、具体的な公訴事実の詳細は…