刑法一一〇条一項の罪の成立には、公共の危険発生の認識は必要でない。
刑法一一〇条一項の罪と公共の危険発生の認識の要否
刑法110条1項
判旨
刑法110条1項の建造物等以外放火罪が成立するためには、火を放って同条所定の物を焼燬する認識(故意)が必要であるが、焼燬の結果として公共の危険を発生させることまでを認識する必要はない。
問題の所在(論点)
刑法110条1項(建造物等以外放火罪)の成立において、客観的処罰条件的な性質を有するとも解し得る「公共の危険」の発生について、行為者の認識(故意)が必要か。
規範
刑法110条1項の放火罪における「故意」(38条1項)の内容として、客観的構成要件要素である「公共の危険」の発生については、その認識を不要とする。すなわち、特定の目的物に対する「焼燬」の認識があれば、当該罪の故意として充足される。
重要事実
被告人は、共犯者らに対し、他人の「単車を潰せ」「燃やせ」等と指示し、共謀を遂げた。実行行為者らは、住宅の軒下に置かれた自動二輪車に放火し、これを焼燬した。被告人は、共謀共同正犯として刑法110条1項の罪に問われたが、同罪の成立には「公共の危険」の発生に対する認識が必要であり、被告人にはその認識がなかったと主張して争った。
事件番号: 平成13(あ)1317 / 裁判年月日: 平成15年4月14日 / 結論: 棄却
1 刑法110条1項にいう「公共の危険」は,同法108条及び109条1項に規定する建造物等に対する延焼の危険に限られるものではなく,不特定又は多数の人の生命,身体又は前記建造物等以外の財産に対する危険も含まれる。 2 市街地の駐車場において,放火された自動車から付近の2台の自動車に延焼の危険が及んだことなど判示の事実関…
あてはめ
放火罪の保護法益は公共の安全であり、110条1項は「公共の危険」を構成要件としている。しかし、同条の構造上、火を放って物を焼燬する認識があれば、法益侵害の危険を伴う行為としての反規範性は充足される。本件において、被告人は「単車を燃やせ」と指示しており、同条所定の物を焼燬する認識(放火の故意)は認められる。したがって、具体的に公共の危険が生じることまでを認識していなくとも、同罪の構成要件的故意を欠くものではない。
結論
刑法110条1項の罪が成立するためには、公共の危険を発生させることまでを認識する必要はない。よって、被告人には同罪の共謀共同正犯が成立する。
実務上の射程
110条1項(および2項)の「公共の危険」が故意の対象かという古典的論点に対する結論を示したものである。答案上は、本罪の故意を論じる際、判例の立場として「公共の危険の認識は不要」と簡潔に指摘すれば足りる。ただし、反対説(認識必要説)に立つ場合は、谷口意見が示すように「器物損壊罪との錯誤」として処理する論理構成も検討に値する。
事件番号: 昭和28(あ)2150 / 裁判年月日: 昭和28年7月31日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】共謀共同正犯の成否について、二人以上の者が特定の犯罪を行うことを共謀し、その一部の者が共謀に基づき実行行為に及んだ場合、実行行為に直接関与していない者も、刑法60条の共同正犯として責任を負うべきである。 第1 事案の概要:被告人A、B、Cらは、特定の犯罪(詳細は判決文からは不明)を共同して行うこと…
事件番号: 昭和44(あ)1371 / 裁判年月日: 昭和44年10月31日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】放火罪において、被告人の自白のみに基づいて犯罪事実を認定することは憲法38条3項に抵触するが、火災の状況に関する証拠等があれば、これを補強証拠として犯罪事実を認定することができる。 第1 事案の概要:被告人が放火の罪に問われた事案において、被告人は自白をしていた。弁護人は、本件の犯罪事実の認定が被…
事件番号: 昭和28(あ)3616 / 裁判年月日: 昭和33年9月16日 / 結論: 棄却
いわゆる火焔瓶を乗用自動車に投げつけ、これに命中破壊させたが、右自動車の運転台座席覆布の一部を焼燬したにとどまり、火炎瓶の火が自動車に燃え移り独立燃焼の程度に達しないときは、刑法第一一〇条の放火罪は成立しない。