控訴審においては、被告人は、原則として公判期日に出頭することを要せず(刑訴三九〇条本分)、公判期日に対する被告人の召喚は、召喚とはいつても、その性質は、右期日を被告人に通知し自ら欲すれば出頭する機会与える意味をもつに過ぎず(昭和二四年新(れ)第五一九号、同二七年一月二日第一小法廷判決、刑集六巻一二号一四〇一頁)、ただ、例外としていわゆる軽微事件以外の事件について、被告人の出頭がその権利の保護のため重要であると認めるときは、被告人の出頭を命ずることができる(同三九〇条但書)のであるが、被告人の出頭を命ずるかどうかは、裁判所の裁量に属するところである。
刑訴法第三九〇条但書の出頭命令と裁判所の裁量。
刑訴法390条,刑訴法273条2項
判旨
控訴審における被告人の召喚は出頭の機会を与える趣旨に過ぎず、軽微事件以外の事件であっても、被告人の出頭を命ずるか否かは裁判所の裁量に属する。被告人が争う意思を欠き、出頭が権利保護のため重要と認められない場合には、被告人不在のまま事実取調を行うことは適法である。
問題の所在(論点)
刑事訴訟法390条但書の規定に基づき、軽微事件以外の事件において、裁判所が被告人の出頭を命じることなく被告人不在のまま事実の取調を進めることが許されるための要件および裁量の範囲。
規範
控訴審において被告人は原則として公判期日への出頭を要しない(刑事訴訟法390条本文)。被告人の召喚は期日を通知し出頭の機会を与える性質のものであり、軽微事件以外の事件について被告人の出頭を命ずることができるのは「被告人の出頭がその権利の保護のため重要であると認めるとき」に限られる(同条但書)。これに該当するか否か、及び実際に出頭を命ずるか否かは裁判所の裁量に属する。
重要事実
被告人は一審で公訴事実を認め、前科の存在を示す証拠にも同意していたが、一審判決は累犯加重の原由となる前科を認定せずに罰金刑を選択した。これに対し検察官が量刑不当を理由に控訴した。控訴審において、控訴申立通知や期日召喚は適式に送達されたが、被告人は期日に出頭せず、弁護人も選任しなかった。原審は被告人の出頭を命じることなく、被告人不在のまま前科に関する事実の取調を行った。
あてはめ
本件は軽微事件ではないが必要弁護事件でもない。被告人は一審で事実を認め、前科についても異議なく同意していた。控訴審の通知や召喚が適式になされたにもかかわらず被告人が出頭も弁護人選任もしなかった事実に照らせば、被告人に事実を争う意思はなかったと認められる。したがって、被告人の出頭が「権利の保護のため重要」であるとはいえず、裁判所が出頭を命じなかったことは裁量の範囲内として適法である。
結論
被告人の出頭を命ずることなく事実の取調をした原審の措置に訴訟法違反はなく、本件上告は棄却される。
実務上の射程
控訴審における被告人不出頭のままの審理の適法性を検討する際の規範として用いる。被告人の防御権保護の必要性と、被告人の主観的な争う意思の有無や訴訟手続への対応状況を相関的に考慮して裁量の逸脱を判断する枠組みとして有効である。
事件番号: 昭和31(あ)4095 / 裁判年月日: 昭和34年6月16日 / 結論: 破棄差戻
第一審判決が起訴にかかる本件道路交通取締法違反教唆の公訴事実はこれを認めるに足る証拠がないとして、被告人に対し無罪を云い渡したところ、控訴裁判所は公判期日において検察官の控訴趣意書のとおりの陳述(事実誤認)をと弁護人の控訴は理由がない旨の陳述をきいただけで自ら事実の取調をすることなく審理を終結し、起訴記録および第一審裁…
事件番号: 昭和32(あ)1602 / 裁判年月日: 昭和35年9月27日 / 結論: 棄却
一 所論「やむを得ない場合」に関して原判決が支持した第一審判決の解釈は正当である。 二 (第一審判決の要旨)被告人並びに弁護人は被告人操縦の乗用自動車と同方向の北行車道上にはその前方に貨物自動車先行しその右側を追越さんと欲し警音器を鳴らすも避譲せずして進路を妨げ、しかも右斜前方には約五〇米を距てて南行車道内を南進し来る…