第一審判決が起訴にかかる本件道路交通取締法違反教唆の公訴事実はこれを認めるに足る証拠がないとして、被告人に対し無罪を云い渡したところ、控訴裁判所は公判期日において検察官の控訴趣意書のとおりの陳述(事実誤認)をと弁護人の控訴は理由がない旨の陳述をきいただけで自ら事実の取調をすることなく審理を終結し、起訴記録および第一審裁判所で取り調べた証拠だけで第一審判決を破棄して原判示の道路交通取締法違反教唆の犯罪事実を認定し、被告人に対し有罪の判決をしたことは、刑訴第四〇〇条但書に違反し、同法第四一一条第一号により破棄を免がれない。
刑訴法第四一一条第一号違反の事例。―刑訴法第四〇〇条但書違反。
刑訴法400条,刑訴法411条1号
判旨
控訴裁判所が第一審の無罪判決を破棄して自ら有罪判決を言い渡す際、事実の取調べを全く行わずに訴訟記録と第一審の証拠のみに基づくことは、刑事訴訟法400条但書の趣旨に反し許されない。
問題の所在(論点)
控訴裁判所が第一審の無罪判決を破棄して自判により有罪とする場合、自ら事実の取調べを行うことなく、第一審の記録と証拠のみに基づいて犯罪事実を認定することは許されるか(刑訴法400条但書の解釈)。
規範
控訴裁判所が第一審の無罪判決を破棄して自ら有罪の自判をするためには、被告人の防御権(憲法31条、37条)および直接審理主義・口頭弁論主義の観点から、公開の法廷において適法な事実の取調べを行い、被告人に弁解の機会を与えなければならない。事後審査制の下においても、事実認定を覆して犯罪事実を確定する場合には、改めて控訴審において事実の取調べを経ることが必要である。
重要事実
第一審が道路交通取締法違反教唆の公訴事実について証拠不十分として無罪を言い渡したところ、検察官が事実誤認を理由に控訴した。控訴審(原審)は、公判期日において検察官および弁護人の陳述を聴取したが、自ら事実の取調べを一切行うことなく、訴訟記録と第一審の証拠のみに基づいて第一審判決を破棄し、被告人両名を有罪とした。
事件番号: 昭和34(あ)1279 / 裁判年月日: 昭和37年12月14日 / 結論: 棄却
控訴審においては、被告人は、原則として公判期日に出頭することを要せず(刑訴三九〇条本分)、公判期日に対する被告人の召喚は、召喚とはいつても、その性質は、右期日を被告人に通知し自ら欲すれば出頭する機会与える意味をもつに過ぎず(昭和二四年新(れ)第五一九号、同二七年一月二日第一小法廷判決、刑集六巻一二号一四〇一頁)、ただ、…
あてはめ
本件において原審は、検察官の控訴趣意書の陳述等を聞いただけで、自ら事実の取調べを一切実施していない。この措置は、被告人が公開の法廷で適法な証拠調べを受け、意見を述べる機会を確保した上でなければ有罪とされないとする大法廷判決の趣旨に照らし、事実上の事後審査の枠を超え、刑訴法400条但書が許容しない手続上の違法がある。このような違法は判決に影響を及ぼし、破棄しなければ著しく正義に反すると認められる。
結論
控訴裁判所が事実の取調べをせず、記録のみで無罪から有罪へと自判することは違法であり、原判決は破棄を免れない。
実務上の射程
第一審の無罪判決を破棄して有罪を自判する場合の制約を定めた重要判例である。答案上は、控訴審の構造(事後審査制)に言及しつつも、被告人の防御権確保の観点から「自ら事実の取調べ」が必須要件となることを論証する際に活用する。特に証拠の信用性評価を覆す場合には、直接主義の要請が強く働く点に留意すべきである。
事件番号: 昭和34(あ)2076 / 裁判年月日: 昭和35年5月31日 / 結論: 破棄差戻
【結論(判旨の要点)】控訴裁判所が第一審の無罪判決を破棄して自ら有罪判決を言い渡す場合、書面審理のみによって事実を確定することは許されず、事実の取調べを行う必要がある。 第1 事案の概要:被告人は第一審において犯罪事実の存在が確定されず無罪判決を受けた。これに対し、控訴審(原審)は、第一審判決を破棄した上で、自ら罰金一…
事件番号: 昭和38(あ)2675 / 裁判年月日: 昭和39年5月29日 / 結論: 棄却
(裁判官山田作之助同城戸芳彦の少数意見)多数意見は、第一審判決が懲役刑の執行猶予を言渡した場合に、控訴審がなんら事実の取調をしないで、第一審判決を量刑不当として破棄し、みずから訴訟記録および第一審で取り調べた証拠のみによつて、ただちに懲役刑(実刑)の言渡をしても、刑訴法第四〇〇条但書に違反するものではないとした昭和二七…