さきに起訴略式命令のあつた犯罪事実と同一の犯罪事実につき同一簡易裁判所にさらに起訴略式命令の請求があつた場合、後の起訴に対しては刑訴三三八条三号に則り判決を以て公訴棄却をなすべきであるがそのことなく略式命令をなした場合、さきの略式命令の送達が遅れたため後になれた略式命令が先に送達され確定したとしても後の起訴に対する略式命令はすでに公訴の提起のあつた事件につきさらに同一裁判所に公訴が提起されたためになされた明らかに違法なものである。
非常上告を理由ありと認めた一事例
刑訴法338条3号,刑訴法458条1号
判旨
同一裁判所に対し同一の犯罪事実について重ねて公訴が提起された場合、たとえ後になされた起訴に基づく裁判が先に確定したとしても、後の起訴自体が二重起訴として違法である以上、公訴棄却の判決をすべきである。
問題の所在(論点)
同一事件について二重に公訴が提起された場合において、後になされた公訴提起(第二の起訴)に基づく裁判が、先になされた公訴提起(第一の起訴)に基づく裁判よりも先に確定したとき、第二の起訴に対する裁判の効力はどうあるべきか。刑事訴訟法338条3号の適用が問題となる。
規範
刑事訴訟法338条3号は、同一事件について更に公訴が提起された場合には、判決で公訴を棄却すべき旨を定めている。この規定は二重起訴の禁止を定めたものであり、後の起訴は提起の時点で既に違法である。したがって、前後両起訴にかかる裁判の確定の前後を問わず、後の起訴に対しては公訴棄却の裁判をなすべきである。
重要事実
被告人は無免許運転の犯罪事実について、昭和30年10月28日に道路交通取締法違反として略式請求を受けた(第一の起訴)。その後、同一の犯罪事実について同年11月28日に再び同一裁判所に対し略式請求がなされた(第二の起訴)。第一の起訴に基づく略式命令は同年11月8日に発せられたが、第二の起訴に基づく略式命令が同年12月8日に発せられ、送達の関係で第二の略式命令が先に確定(昭和31年1月14日)し、第一の略式命令はその後に確定(同年2月3日)するに至った。
事件番号: 昭和31(さ)5 / 裁判年月日: 昭和31年11月30日 / 結論: 破棄自判
さきに起訴略式命令のあつた犯罪事実と同一の犯罪事実につき、同一簡易裁判所に他の犯罪事実と共にさらに起訴略式命令の請求があつた場合に、その簡易裁判所が右二重起訴の部分について刑訴第三三八条第三号により公訴を棄却することなく、略式命令により他の犯罪事実と併合罪として処断し、さきの略式命令確定後右略式命令が確定したときは、後…
あてはめ
本件において、第二の起訴は、第一の起訴がなされた後、その確定前になされている。熊本簡易裁判所は、第二の起訴を受けた時点ですでに第一の起訴を受けていたのであるから、第二の起訴に対して重ねて略式命令を発することはできない。本来であれば刑事訴訟法338条3号に基づき公訴棄却の判決をすべきであった。たとえ第二の起訴に基づく略式命令が、第一の起訴に基づく略式命令より先に確定したとしても、第二の起訴自体が「既に公訴の提起があつた事件につき更に公訴が提起された」という違法な状態にあることに変わりはない。
結論
第二の起訴に基づく略式命令は、刑事訴訟法338条3号に反する違法なものである。したがって、非常上告に基づき原略式命令を破棄し、公訴棄却の判決をなすべきである。
実務上の射程
二重起訴(刑訴法338条3号)の場面において、後訴が先行して確定したとしても、後訴の違法性は治癒されないことを示した。答案上は、一事不再理効(337条1号)との区別に注意が必要である。既に確定判決がある事件への起訴は337条1号の問題だが、本件のように起訴が重なっている間に一方が確定した場合は、起訴時の前後関係から338条3号の問題として処理する。
事件番号: 昭和31(さ)4 / 裁判年月日: 昭和31年11月29日 / 結論: 破棄自判
被告人が法令に定められた運転の資格を持たないで、昭和三〇年五月一九日午後一時頃玉名市aよりA号自動三輪車を運転して、玉名市b町内を乗り廻して無謀操縦をしたという公訴事実と、同一被告人が法令に定められた運転の資格を持たないで、昭和三〇年五月一九日午後一時四〇分頃玉名市c町道路においてB家所有の自動三輪車を運転して無謀操縦…
事件番号: 昭和41(さ)2 / 裁判年月日: 昭和41年5月27日 / 結論: その他
【結論(判旨の要点)】既に確定した略式命令と同一の公訴事実について重ねて公訴が提起された場合、裁判所は刑訴法337条1号に基づき、判決で免訴を言い渡さなければならない。 第1 事案の概要:被告人は、昭和38年11月15日の無免許運転の事実について、同年12月5日に罰金6000円の略式命令が確定した。しかし、その後、検察…
事件番号: 昭和41(さ)1 / 裁判年月日: 昭和41年4月28日 / 結論: その他
【結論(判旨の要点)】既に確定した裁判と同一の犯罪事実について、重ねて公訴が提起され、これに基づき略式命令が発せられた場合、当該後の裁判は刑事訴訟法337条1号に違反する。このような二重の確定裁判が生じた事態は、被告人の不利益が明らかであるため、非常上告の手続により原判決を破棄し、免訴を言い渡すべきである。 第1 事案…