一 原審第二回公判調書は証人Aに対する尋問及び被告人Bに対する質問につき、「C弁護人」と記載すべきを「D弁護人」と、又証人Eに対する尋問につき「D弁護人」と記載すべきを「C弁護人」と各誤記したものと認められる。けだし被告人両名は共謀関係のない各別の収賄であつて、弁護人は各別に選任されたのであるから自己の担当しない被告人及びその証人につき質問及び尋問を行つたとは考えられないし又その質問尋問につき異議が述べられた形跡もないこと及び第一回公判調書の正確な記載とを比照すれば明白な誤記と認められるからである。 二 右のごとき明白な誤記については刑訴五二条の規定にかかわらず、これを本来の趣旨に従つて解釈することを妨げないものと解すべきである。
一 公判調書の記載が明白な誤記と認められる事例。 二 明白な誤記と公判調書の証明力。
刑訴法52条
判旨
公判調書に明白な誤記がある場合、刑訴法52条の規定にかかわらず、本来の趣旨に従って解釈することを妨げない。また、収賄罪における追徴について、受託した金銭そのものではなく、別個の金銭を返還したに過ぎない場合は、当該被告人から追徴すべきである。
問題の所在(論点)
1.公判調書に明白な誤記がある場合、刑訴法52条の制限を超えて事実認定の資料とできるか。2.収受した金銭そのものではない金員を贈賄者に返還した場合、没収・追徴の対象は誰になるか。
規範
1.公判調書の証明力(刑訴法52条)について:公判調書に明白な誤記がある場合には、同条の規定にかかわらず、前後の記載や事案の性質に照らし、本来の趣旨に従って解釈することができる。2.追徴(刑法197条の5)について:賄賂として収受した金銭そのものを返還したのではなく、単に同額程度の別個の金銭を返還したに過ぎない場合は、没収不能として被告人からその価額を追徴すべきである。
重要事実
被告人Bは収賄罪に問われ、原審において証人尋問等が行われた。原審の第2回公判調書には、弁護人の氏名が取り違えて記載されていたが、第1回公判の記載や、被告人両名に共謀関係がなく各別に弁護人が選任されていた事実、及び尋問時に異議がなかった事実に照らせば、明白な記載ミスであった。また、被告人は贈賄者Gに対し49万2000円を返還したが、そのうち19万5000円を超える部分については、収受した金銭そのものを返還したものではなかった。原審は、この収受した金銭そのものではない返還分について、被告人から追徴を命じた。
あてはめ
1.公判調書の解釈:本件の誤記は、被告人ごとに個別の弁護人が付いているという客観的事実や第1回公判の正確な記載と比照すれば明白である。このような明白な誤記については、調書の形式的な記載内容に拘束されず、実質的な趣旨に沿って解釈すべきであるため、適法な証人尋問が行われたと認められる。2.追徴の帰属:被告人が返還した金員のうち、収賄した金銭そのものでない部分については、贈賄者が「賄賂」そのものを保持しているとはいえない。したがって、被告人の手元に賄賂の価値が一度帰属し、消費等により現物が消失したのと同視できるため、被告人からその価額を追徴するのが相当である。
結論
1.公判調書の誤記を本来の趣旨で解釈し、訴訟手続の違法を否定した原判決は正当である。2.収受した現物ではない金銭を返還した場合に、被告人から追徴を命じた判断も妥当であり、上告を棄却する。
実務上の射程
公判調書の絶対的証明力の例外として「明白な誤記」の法理を示す重要判例である。また、収賄罪の追徴において、返還による追徴免脱を認めないための実務上の基準(現物返還か否か)を明確にしている。答案上は、調書の記載と実態が異なる場合の事実認定の許容性や、追徴の相手方を決定する際のあてはめで活用できる。
事件番号: 昭和29(あ)2409 / 裁判年月日: 昭和30年3月17日 / 結論: 棄却
一 室内装飾工事の請負人が特別調達局施行の工事につき同局勤務の総理府事務官に対し、一定の職務行為の依頼でなしに、単にその工事の監督促進につき何かと世話になつた謝礼および将来好意ある取扱を受けたい趣旨で金員を供与するのは、刑法第一九八条第一九七条第一項後段にいう請託を贈賄したことにはならない。 二 右の場合これを刑法第一…