判旨
収賄罪の成立において、供述が唯一の直接証拠である場合、その供述の信憑性は客観的事実や他の関係者の供述と整合するかを厳格に検討すべきであり、重大な矛盾がある場合には事実誤認の疑いがある。
問題の所在(論点)
贈賄側の供述以外に直接証拠がない状況において、その供述に多くの不自然な点や他者の供述との矛盾があるにもかかわらず、当該供述のみを根拠に収賄事実を認定することが許されるか(重大な事実誤認の有無)。
規範
被告人と利害相反する関係にある供述者の証言を唯一の直接証拠として犯罪事実を認定する際には、(1)その供述自体に不自然・不合理な点がないか、(2)他の関係者の供述や客観的事実と矛盾しないか、(3)供述変遷の合理性、(4)動機や多額の現金の行方といった周辺事実の裏付けがあるか、等を慎重に検討し、合理的な疑いを超えた証明が必要である。
重要事実
被告人C(警察官)が、贈賄側Aらから現金30万円入りの鞄を受領し、さらに後日追加の10万円を受領したとして収賄罪で起訴された。Cは「鞄は中身を入れたまま返却し、追加の10万円も拒否した」と一貫して否認。これに対し、原審は「鞄は空で返却され、追加の10万円も渡した」とするAの供述を信用して有罪とした。しかし、Aの供述は、現金不足に気づいた経緯や鞄の返却時期について、第三者的立場にあるBら他の関係者の供述と著しく食い違っていた。また、当時のCの勤務状況から見て、Aの主張するタイミングでCが頻繁に移動できたかも疑わしく、さらに多額の現金の行方も不明であった。
あてはめ
第一に、Aは「Cから聞いて現金不足を知った」とするが、Bらは「Cが鞄を返す前にAから不足の照会があった」としており、Aの供述は客観的順序に反する。第二に、わざわざ古い空の鞄のみを返却・受領するというAの主張は不自然である。第三に、警察学校在校中であったCが平日の日中に頻繁にAのもとへ赴くのは物理的に困難である。第四に、当時の警部補にとって大金である40万円の使途や行方が一切解明されていない。以上、Aの供述は信憑性が甚だ疑わしく、これのみを証拠とした事実認定は正義に反する重大な事実誤認の疑いがある。
結論
被告人が現金を収受したとの事実認定には、重大な事実誤認がある。原判決を破棄し、差し戻す。
実務上の射程
供述証拠の証明力の評価に関する判断枠組みとして、刑事訴訟法411条3号(事実誤認)の適用場面で重要となる。特に、収賄事件のように密室で行われ、贈賄側の供述が主たる証拠となる事案において、客観的状況との不整合を突く際の指針となる。
事件番号: 昭和31(あ)4478 / 裁判年月日: 昭和34年5月22日 / 結論: 破棄差戻
第一審判決が起訴にかかる第一の(一)ないし(五)の各収賄の公訴事実中(三)の所為につき犯罪の証明がないとして被告人に対し無罪を言い渡した場合に、控訴裁判所が右判決を破棄し、右(三)の所為につき被告人の職務権限について事実の取調をしただけで、事件の核心をなす金員の授受自体についてなんら事実の取調を行うことなく、起訴記録お…
事件番号: 昭和29(あ)3070 / 裁判年月日: 昭和30年3月31日 / 結論: 棄却
被告人A、同Bの弁護人馬橋隆二の上告趣意第一点は、違憲をいうが、所論第三、第五の各事実は、公文書偽造の犯罪事実であり、同第六、第一〇の各事実は、判示公印の押してある用紙各一枚を与えて右公文書偽造に協力した不正の行為をしたことに関し収賄した犯罪事実であつて、前者と後者とは、同一の犯罪事実ではないから、違憲の主張は、その前…