第一審判決が起訴にかかる第一の(一)ないし(五)の各収賄の公訴事実中(三)の所為につき犯罪の証明がないとして被告人に対し無罪を言い渡した場合に、控訴裁判所が右判決を破棄し、右(三)の所為につき被告人の職務権限について事実の取調をしただけで、事件の核心をなす金員の授受自体についてなんら事実の取調を行うことなく、起訴記録および第一審で取り調べた証拠のみによつて犯罪事実の存在を確定し、有罪の判決をすることは、刑訴第四〇〇条但書の許さないところである。
刑訴法第四〇〇条但書に違反する事例。
刑訴法400条但書
判旨
第一審の無罪判決を事実誤認を理由に破棄する場合、控訴審が自ら事実の取調べを行うことなく、訴訟記録と第一審の証拠のみで直ちに有罪判決を言い渡すことは、刑訴法400条ただし書により許されない。直接主義・口頭主義の観点から、被告人の供述や証人の証言に疑義がある場合には、控訴審において適切な取調べを要する。
問題の所在(論点)
第一審の無罪判決を事実誤認を理由に破棄する際、控訴審が自ら事実の取調べを行うことなく、第一審の証拠のみに基づき直ちに有罪判決を言い渡すことは刑訴法400条ただし書に反し許されるか。
規範
第一審が犯罪の証明がないとして無罪を言い渡した事案において、控訴審が「第一審判決には事実誤認がある」としてこれを破棄する場合、控訴審自ら事実の取調べをすることなく、訴訟記録及び第一審で取り調べた証拠のみによって直ちに犯罪事実の存在を確定し、被告人に有罪の判決をすることは刑訴法400条ただし書の解釈として許されない。
重要事実
被告人は収賄の事実で起訴されたが、金員の授受自体およびその趣旨を否認して争っていた。第一審は、犯罪の証明が十分でないとして被告人に無罪を言い渡した。これに対し検察官が事実誤認を理由に控訴したところ、原審(控訴審)は、金員授受の点について自ら新たな事実の取調べを行うことなく、第一審の訴訟記録と証拠(検察官に対する各供述調書や第一審証人の証言等)のみを総合して第一審判決を破棄し、直ちに被告人を収賄罪で有罪とした。
あてはめ
本件において、被告人は金員の授受という事件の核心部分を争っていた。第一審は、供述調書や証人尋問の結果を検討した上で、犯罪の証明がないと判断し無罪を言い渡している。これに対し、原審は被告人の職務権限については取調べを行ったものの、金員の授受自体という核心的な事実については自ら取調べを行っていない。第一審が無罪とした事実を覆して有罪とするためには、直接主義・口頭主義の観点から、控訴審においても必要な取調べを経るべきである。したがって、訴訟記録と旧証拠のみで直ちに有罪を確定させた原審の判断は、適正な事実認定の枠組みを逸脱しているといえる。
結論
控訴審が自ら事実の取調べをすることなく、第一審の証拠のみで無罪を覆し有罪とすることは刑訴法400条ただし書に違反する。原判決を破棄し、差し戻すべきである。
実務上の射程
控訴審の自判権(400条ただし書)の限界を示す重要判例である。答案上は、第1審の無罪判決を破棄して有罪を自判する場合の制約として論じる。特に供述証拠の信用性が問題となる事案において、控訴審が「直接証拠に触れずに書面のみで結論を覆す」ことの危険性を指摘する文脈で使用する。反対に、客観的証拠により事実誤認が明白な場合などは本判例の射程外となる可能性があることに留意する。
事件番号: 昭和42(あ)2677 / 裁判年月日: 昭和43年12月19日 / 結論: 破棄差戻
一審無罪の収賄事件の核心たる犯意の点について何ら事実の取調をすることなく、訴訟記録および一審で取り調べた証拠のみにより、犯罪事実の存在を確定し有罪の判決をしたことは、刑訴法第四〇〇条但書の解釈適用を誤り、当裁判所の判例に反する判断をしたものである。