一審無罪の収賄事件の核心たる犯意の点について何ら事実の取調をすることなく、訴訟記録および一審で取り調べた証拠のみにより、犯罪事実の存在を確定し有罪の判決をしたことは、刑訴法第四〇〇条但書の解釈適用を誤り、当裁判所の判例に反する判断をしたものである。
刑訴法第四〇〇条但書に違反するとされた事例
刑訴法400条但書,刑訴法410条,刑法197条1項
判旨
控訴審が第1審の無罪判決を破棄し、自判により有罪とする場合、事件の核心となる主観的態様等について改めて事実の取調べを行わず、記録と証拠のみで犯罪事実を確定することは刑事訴訟法400条但書の解釈を誤るものである。
問題の所在(論点)
控訴審が第1審の無罪判決を破棄して自判により有罪とする際、第1審が否定した主観的要件(犯意)について新たな事実の取調べをせず、記録のみで事実確定することが刑事訴訟法400条但書に照らして許されるか。
規範
刑事訴訟法400条但書に基づき、控訴審が第1審の無罪判決を破棄して自ら有罪の判決(自判)をするには、第1審が犯罪の証明がないとした核心的要素(犯意の有無等)について、控訴審において改めて事実の取調べを行い、直接証拠に接するなどして犯罪事実を確定しなければならない。
重要事実
被告人が職務に関し寝具の供与を受けたとして収賄罪で起訴された事案。第1審は、物品の授受は認めたが、被告人に収賄の犯意があったと認めるに足りる証拠がないとして無罪を言い渡した。これに対し、原審(控訴審)は、職務権限に関する証人喚問を行ったのみで、事件の核心である収賄の犯意については何ら事実の取調べを行わなかった。その上で、第1審の証拠記録のみに基づき犯意を肯定し、第1審判決を破棄して自ら有罪を言い渡した。
あてはめ
本件において、第1審は収賄の犯意の存在を否定して無罪としたが、控訴審は職務権限に関する証人を調べたに留まり、犯意の有無という事件の核心的事実について事実の取調べを行っていない。控訴審が第1審の記録と証拠のみによって、第1審が否定した主観的態様を逆転させて肯定し、犯罪事実を確定させることは、適正な事実認定の枠組みを逸脱するものである。したがって、かかる手続による自判は、刑訴法400条但書の解釈適用を誤った違法がある。
結論
原判決を破棄し、福岡高等裁判所に差し戻す。控訴審が第1審の無罪判決を破棄して有罪を自判する場合、争点となる事実(特に犯意などの主観的要素)について自ら事実の取調べを行わなければならない。
実務上の射程
控訴審の事後審的性格と、有罪認定における慎重な事実調べの必要性を示す。答案上は、第1審が無罪とした事案を控訴審が逆転させる際の「事実の取調べ」の必要性を論じる際に引用する。特に主観的態様が争点となる場合の自判の限界を画する判例として重要である。
事件番号: 昭和31(あ)4478 / 裁判年月日: 昭和34年5月22日 / 結論: 破棄差戻
第一審判決が起訴にかかる第一の(一)ないし(五)の各収賄の公訴事実中(三)の所為につき犯罪の証明がないとして被告人に対し無罪を言い渡した場合に、控訴裁判所が右判決を破棄し、右(三)の所為につき被告人の職務権限について事実の取調をしただけで、事件の核心をなす金員の授受自体についてなんら事実の取調を行うことなく、起訴記録お…