判旨
第一審の無罪判決を破棄し、被告事件について直ちに有罪を言い渡す場合には、控訴裁判所は自ら事実の取調べを行う必要があり、これを行わずに第一審の証拠のみで有罪とすることは刑事訴訟法400条但書により許されない。
問題の所在(論点)
控訴裁判所が、第一審の無罪判決を破棄して自ら有罪の自判をする際に、独自の事実の取調べを行うことなく第一審の記録・証拠のみに基づき判断することが、刑訴法400条但書に照らして許されるか。
規範
第一審判決が公訴事実の証明がないとして被告人に無罪を言い渡した場合、控訴裁判所が事実誤認を理由にこれを破棄し、自ら事実の取調べをすることなく、訴訟記録及び第一審裁判所で取り調べた証拠のみによって直ちに犯罪事実を確定して有罪判決をすることは、刑訴法400条但書の許さないところである(昭和27年(あ)第5877号、同31年9月26日大法廷判決参照)。
重要事実
被告人A及びBに対し、第一審裁判所は公訴事実の証明が不十分であるとして無罪を言い渡した。これに対し検察官が事実誤認を理由に控訴したところ、原審(控訴審)は自ら事実の取調べを一切行うことなく、訴訟記録と第一審の証拠のみに基づき、直ちに第一審判決を破棄して被告人両名に対し有罪を言い渡した。一方、被告人Dについては、原判決が第一審公判調書の記載を見誤り被告人の否認を自白と判示する誤りがあったが、他の証拠により事実認定が可能とされた。
あてはめ
本件において、原審は被告人A及びBの無罪判決を破棄するにあたり、自ら新たな証拠調べや事実の確認を行っていない。第一審が証拠不十分と判断した事案を、同一の証拠資料のみに基づいて逆転有罪とする行為は、事実認定の慎重さを期する刑訴法400条但書の趣旨に抵触する。したがって、何ら事実の取調べをせず直ちに有罪とした原審の判決手続には、判例に違反する明らかな法令違反が認められる。なお、被告人Dについては、公判調書の誤読はあるものの、他の証拠により認定が維持可能であり、破棄事由には当たらない。
結論
原判決のうち被告人A及びBに関する部分は、刑訴法400条但書に反する違法があるため破棄を免れず、本件を原審に差し戻す。被告人C及びDの上告については、上告理由に当たらないため棄却する。
実務上の射程
控訴審における逆転有罪判決の限界を示す重要判例である。答案上は、第1審の無罪判決を破棄して自判(400条但書)する場合の要件として、直接主義・口頭主義の観点から「自ら事実の取調べ」が不可欠であることを論じる際に引用する。
事件番号: 昭和27(あ)276 / 裁判年月日: 昭和33年7月2日 / 結論: 棄却
一 控訴審における公判の審理が、単に、控訴趣意書に基く陳述とこれに対する相手方の答弁だけであつても、被告人に対しては、右公判に出頭する機会が適法に与えられ、しかも検察官が出席し、弁護人が出頭して、弁論をしている以上、憲法第三七条第一項、第八二条第一項に違反しない。 二 第一審の有罪判決に対し、検察官、被告人双方共控訴を…