一 控訴審における公判の審理が、単に、控訴趣意書に基く陳述とこれに対する相手方の答弁だけであつても、被告人に対しては、右公判に出頭する機会が適法に与えられ、しかも検察官が出席し、弁護人が出頭して、弁論をしている以上、憲法第三七条第一項、第八二条第一項に違反しない。 二 第一審の有罪判決に対し、検察官、被告人双方共控訴を申し立て、控訴趣意として、検察官は第一審判決の量刑が軽きにすぎると主張し、被告人は、その量刑が重きに過ぎると主張している場合に、控訴審の判決が、「第一審の科刑は不当であると思われるので、論旨は結局においていずれも理由がある」と説示しても、理由そごの違法はない。
一 控訴審の公判と憲法第三七条第一項および第八二条第一項。 二 量刑過重の控訴趣意と量刑過軽の控訴趣旨がいずれも理由ありとした控訴審判決の説示と理由そごの有無。
憲法37条1項,憲法82条1項,刑訴法389条,刑訴法390条,刑訴法400条但書,刑訴法378条4号,刑訴法397条1項,刑訴法381条
判旨
控訴審が第1審の量刑を不当として破棄自判する場合、常に自ら事実の取調を行う必要はなく、訴訟記録等の証拠によって不当性が認められるときは、事実取調なしに第1審より重い刑を言い渡すことも適法である。
問題の所在(論点)
控訴審が自ら事実の取調を行うことなく、第1審の執行猶予判決を破棄して実刑というより重い刑を言い渡すこと(刑訴法400条但書の適用)が、適正な裁判を受ける権利(憲法37条1項、82条1項)や同条の解釈として許されるか。
規範
控訴審が第1審判決の量刑の当不当を審査するにあたっては、必ずしも常に控訴審自ら事実の取調をしなければならないものではない。訴訟記録及び第1審において取り調べた証拠によって量刑の不当なことが認められるときは、刑事訴訟法400条但書に基づき、自ら事実の取調をすることなく第1審より重い刑を言い渡すことができる(憲法37条1項にも反しない)。
重要事実
第1審で懲役3年・執行猶予4年の判決を受けた被告人に対し、検察官は量刑不当を理由に、弁護人は量刑過重を理由にそれぞれ控訴した。控訴審は、公開法廷で控訴趣意書に基づく弁論・意見陳述の手続を経たが、独自の事実取調(証拠調べ)は行わなかった。その上で、控訴審は「第1審の科刑は不当」として第1審判決を破棄し、刑訴法400条但書を適用して被告人を懲役10月の実刑に処する自判(不利益変更)を行った。
あてはめ
控訴審は事後審的性格を有しており、第1審の記録及び証拠を審査の対象とする。本件では、公開法廷において検察官及び弁護人の双方が控訴趣意に基づき弁論し、意見を陳述する機会が適法に保障されていた。このような手続を経た以上、記録上の証拠によって第1審の量刑が軽きに失することが明らかであれば、追加の事実取調を行わずとも量刑を重く変更することは可能である。また、第1審判決の不当性を指摘する文脈で「双方の控訴趣意に理由がある」と説示した点は、量刑が適正でないという共通の結論を導くものであり、理由齟齬の違法もない。
結論
控訴審が事実の取調を行わずに第1審より重い刑を言い渡しても、刑訴法400条但書の解釈を誤ったものとはいえず、憲法37条1項にも違反しない。
実務上の射程
控訴審の事後審的構造を前提とした判例であり、量刑不当を理由とする破棄自判において、記録上の証拠で判断可能な場合には事実取調が必須ではないことを示した。もっとも、第1審の認定した事実そのものを覆して不利益に変更する場合には、別途慎重な検討が必要となる点に注意を要する。
事件番号: 昭和27(あ)4223 / 裁判年月日: 昭和31年7月18日 / 結論: 棄却
一 麻薬取締法(昭和二三年法律第一二三号)第一四条、第五九条の規程は憲法第三八条第一項に違反しない。 二 第一審判決が懲役刑の執行猶予を言い渡した場合に、控訴裁判所が何ら事実の取調をしないで、第一審判決を量刑不当として破棄し、自ら控訴記録および第一審で取り調べた証拠のみによつて、懲役刑(実刑)の言渡をしても、刑訴第四〇…
事件番号: 昭和30(あ)3957 / 裁判年月日: 昭和32年5月31日 / 結論: その他
【結論(判旨の要点)】控訴裁判所が第一審判決の量刑不当を理由に被告人に不利益な自判を行う際、必ずしも自ら事実の取調べを行う必要はなく、訴訟記録等の調査のみで足りる。 第1 事案の概要:被告人A及びBは、監禁、傷害、公職選挙法違反等の罪で第一審において執行猶予付きの懲役刑を言い渡された。検察官は量刑不当を理由に控訴し、控…