判旨
控訴審が第一審の無罪判決を破棄して直ちに有罪判決を自判する場合、証拠調べ等の事実の取調べを行うことなく、訴訟記録と第一審の証拠のみに基づき犯罪事実を認定することは、刑事訴訟法400条但書の許さないところである。
問題の所在(論点)
控訴審が第一審の無罪判決を破棄し、自ら有罪判決を言い渡す(自判する)にあたり、新たな事実の取調べを行うことなく第一審の証拠のみに基づき犯罪事実を認定することは、刑事訴訟法400条但書に照らして許されるか。
規範
刑事訴訟法400条但書は、控訴審が第一審判決を破棄する場合において「訴訟記録及び第一審裁判所において取り調べた証拠によつて、直ちに判決をすることができる」ときには自判できる旨規定する。しかし、第一審の無罪判決を破棄して有罪とする場合には、被告人の防御権や直接主義・口頭主義の観点から、新たな事実の取調べを経ることなく直ちに犯罪事実を確定することは許されない。
重要事実
第一審裁判所は、被告人について犯罪の証明がないとして無罪を言い渡した。これに対し、控訴審(原審)は、自ら事実の取調べを一切行うことなく、第一審の訴訟記録および第一審裁判所が取り調べた証拠のみを基礎として、第一審判決を破棄した。その上で、直ちに被告人の犯罪事実を認定し、有罪の自判判決を下した。
あてはめ
本件において、原審は事実の取調べを全く行っていない。第一審が証拠不足として無罪とした事案を、同一の証拠のみに基づいて有罪へと反転させることは、実質的な証拠評価の変更を伴う。このようなプロセスを事実の取調べなしに行うことは、刑事訴訟法400条但書の許容範囲を超えており、適正手続に反する違法な判決といえる。この違法は、正義に反する重大なものとして、破棄事由(刑訴法411条1号)に該当する。
結論
原判決は刑訴法400条但書に違反し、著しく正義に反するため、破棄を免れない。事件を名古屋高等裁判所に差し戻す。
実務上の射程
控訴審における逆転有罪自判の限界を画した判例である。現行実務においても、第一審の無罪判決の根拠となった証拠(特に供述証拠)の信用性を控訴審が否定して有罪とする場合には、原則として改めて証拠調べを行う必要があるとする規範(直接主義的要請)の基礎となる。
事件番号: 昭和31(あ)4020 / 裁判年月日: 昭和32年3月15日 / 結論: 棄却
第一審裁判所が公訴事実を認むるに足る十分な証明がないとして、被告人に対し無罪の言渡をなし、これに対し検察官から控訴の申立があつた場合において、控訴審が自ら証人四名の取調をした上、これと訴訟記録並びに第一審裁判所において取調べた証拠とによつて、破棄自判し、被告人に対し有罪の判決をしたときは刑訴第四〇〇条但書の規定に違反す…