憲法第三八条三項の定める自白を唯一の証拠とすることの禁止は、もともと犯罪事実の認定に関するものであることは、当裁判所大法廷の判例の趣旨に徴して、おのづから明らかである(昭和二三年(れ)第一六八号同年七月二九日大法廷判決)。しかるに、被告人がAから取受した所論金二千円を費消したという事実は、もとより被告人の収賄罪を構成する事実ではなく、単に右金員を沒収することが不能となつた原因として追徴の理由となつているに過ぎない。それゆえ、原審が右費消の事実を、所論供述調書中の自供のみを資料として認めたとしてもすこしも違法ではない。
犯罪構成要件以外の事実を被告人の自供のみによつて認定することの適否
憲法38条3項,刑訴法319条2項
判旨
補強証拠は犯罪事実の全部を個別的に証明する必要はなく、自白が架空でないことを確かめうる証拠があれば足りる。また、追徴の理由となる金員費消の事実は犯罪事実そのものではないため、補強証拠を要しない。
問題の所在(論点)
1. 収賄罪の構成要件要素である「賄賂の趣旨」について、外形的事実の補強証拠のみで自白に基づき認定できるか。 2. 追徴の理由となる「金員の費消」という事実に補強証拠が必要か(憲法38条3項の射程)。
規範
1. 犯罪事実の一部について、自白が架空のものでないことを担保しうる補強証拠がある限り、自白と併せて犯罪事実の全部を認定できる。 2. 憲法38条3項の自白による証拠制限は犯罪事実の認定に関するものであり、没収不能による追徴の理由となる事実は、構成要件に該当する犯罪事実ではないため、自白のみで認定が可能である。
重要事実
被告人はAから金2,000円を収受したとして収賄罪で起訴された。金員受領の外形的事実については証人らの調書が存在したが、授受の趣旨(賄賂性)についての直接的な証拠は被告人の自白のみであった。また、収受した金員を費消したという事実(追徴の前提事実)についても、被告人の供述調書以外に証拠がない状態であった。
あてはめ
1. 本件では金2,000円を受け取ったという外形的事実等が証人尋問調書により肯定されている。この事実は自白の真実性を担保するに足りるため、金員授受の趣旨という内心の要素が自白のみによるものであっても、自白の補強法則に反しない。 2. 金員を費消した事実は、収賄罪の構成要件に該当する事実ではなく、没収不能に伴う追徴の要件にすぎない。したがって、犯罪事実そのものの認定ではないため、自白のみを資料として認めても違憲・違法ではない。
結論
被告人の自白と、外形的事実を裏付ける補強証拠によって犯罪事実全部を認めた原判決は正当である。また、追徴の前提事実に補強証拠は不要であり、上告を棄却する。
実務上の射程
司法試験において補強法則が問われる際、「実質説(真実性担保説)」の立場から、補強証拠が及ぶ範囲を限定的に解釈する論拠として重要である。特に追徴の基礎となる事実のように、罪体(犯罪の核心)に直接関わらない付随的事実については補強証拠が不要であることを明示する際に有用な判例である。
事件番号: 昭和26(あ)4720 / 裁判年月日: 昭和28年5月29日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】被告人の自白を補強する証拠として、共犯者や贈収賄の相手方など他の証拠能力ある供述を用いることは、憲法38条3項に違反しない。 第1 事案の概要:被告人が収賄の罪で起訴された事案において、第一審判決は被告人自身の供述(自白)のほかに、贈賄側である証人Aの公判廷における供述、および司法警察員や検察官に…