判旨
控訴趣意書の差出期間内に弁護人が選任されず趣意書が提出されなかった場合であっても、それが被告人の責に帰すべき事由によるものであり、裁判所が弁護人選任権を妨げた事情がない限り、控訴棄却の決定は憲法に反しない。
問題の所在(論点)
被告人の責に帰すべき事由により控訴趣意書が提出されなかった場合に、刑訴法386条1項1号に基づき控訴棄却の決定をすることが、憲法37条3項の保障する弁護人依頼権に抵触しないか。
規範
被告人に憲法37条3項の弁護人依頼権が保障されているとしても、被告人が自己の責に帰すべき事由により期限までに弁護人を選任せず、かつ国選弁護人の選任請求も行わなかった結果、控訴趣意書が提出されなかった場合には、刑訴法386条1項1号に基づく控訴棄却の決定は正当化される。裁判所が被告人の弁護人選任権の行使を不当に妨げた等の特段の事情がない限り、右決定は憲法及び法律に違反しない。
重要事実
詐欺被告事件の控訴審において、裁判所は控訴趣意書の差出最終日を2月10日と指定し、被告人及び弁護人に通知した。しかし、通知後に弁護人が辞任したため、裁判所が被告人に弁護人選任の有無を照会したところ、被告人は自ら選任する旨回答した。被告人はその後、期限までに私選弁護人を選任せず、また国選弁護人の選任請求も可能な状態であったにもかかわらずこれを行わなかった。結局、期限までに控訴趣意書が提出されなかったため、裁判所は刑訴法386条1項1号に基づき控訴棄却の決定を下した。
あてはめ
本件では、被告人は裁判所からの照会に対し自ら弁護人を選任する旨回答しながら、差出期間内に提出が可能となる時期までに選任を行わなかった。また、国選弁護人の選任を請求できる状況にありながらこれを行わなかったことも認めている。これらの事実は、控訴趣意書が提出されなかったことが「被告人の責に帰すべき事由」に基因することを示すものである。さらに、裁判所が被告人の弁護人選任権の行使を妨げた事跡も認められない。したがって、期限徒過を理由とする控訴棄却は、被告人の権利を不当に侵害するものとはいえない。
結論
被告人の責に帰すべき事由により控訴趣意書が提出されなかった本件において、控訴棄却の決定をした裁判所の処置は相当であり、憲法違反には当たらない。
事件番号: 昭和28(し)56 / 裁判年月日: 昭和30年2月23日 / 結論: 棄却
憲法三七条三項前段所定の弁護人に依頼する権利は、被告人が自ら行使すべきもので、裁判所は被告人にこの権利を行使する機会を与え、その行使を妨げなければ足るものであること、同条項後段の規定は被告人が貧困その他の理由で弁護人を依頼できないときは国に対して弁護人の選任を請求できるものであり、国はこれに対して弁護人を附すれば足るも…
実務上の射程
控訴審における必要的弁護の要否や控訴趣意書提出義務の帰属が問題となる場面で、被告人側の懈怠がある場合の救済の限界を示す射程を持つ。答案上は、被告人の手続保障と迅速な裁判の要請を比較衡量する際の考慮要素(帰責事由の有無)として活用できる。
事件番号: 昭和28(し)67 / 裁判年月日: 昭和28年9月16日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】控訴趣意書の最終提出日直前に別罪で逮捕勾留されたために提出が遅れた場合であっても、刑訴法386条1項1号に基づく控訴棄却決定は、被告人の弁護権行使を不当に制限するものではなく、憲法13条等に違反しない。 第1 事案の概要:被告人は控訴を提起したが、控訴趣意書の最終提出日の2日前に別罪により逮捕勾留…
事件番号: 昭和28(し)27 / 裁判年月日: 昭和28年7月31日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】私選弁護人が公判期日に不出頭であった場合に、裁判所が新たに国選弁護人を選任し、当該国選弁護人が既提出の控訴趣意書に基づき弁論を行う手続は、憲法32条および刑訴法289条に違反しない。 第1 事案の概要:被告人の私選弁護人が、期日の変更請求等の適切な手続を怠ったまま、控訴審の公判期日に出頭しなかった…
事件番号: 平成5(し)170 / 裁判年月日: 平成6年1月21日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】被告人が選任した弁護人に十分な時間がありながら控訴趣意書を提出せず、期限当日に辞任した場合には、控訴棄却決定は有効であり、弁護権の侵害や手続の不備には当たらない。 第1 事案の概要:被告人が自ら選任した私選弁護人が存在していた事案である。当該弁護人は、控訴趣意書の提出期限までに提出準備のための十分…
事件番号: 昭和25(し)27 / 裁判年月日: 昭和26年2月9日 / 結論: 棄却
強制弁護の事件につき、裁判所が被告人に対し、弁護人を選任することができること、貧困その他の事由によつて弁護人を選任することができないときは、弁護人の選任を請求することができるとの記載のある弁護人選任に関する通知を出したのに対し、被告人から自分の方で弁護人甲を選任する旨を回答があつた場合には、控訴裁判所は被告人に対し、控…